「………?」

……なんだ?

いつもなら廊下から喧嘩する声が聞こえるし、窓ガラスが飛び散って、先生が怒鳴り声をあげているはずなのに。
妙に静かなのだ。
生徒も、先生も。

この雰囲気の原因が分からず、我慢ならず俺は前の席の大橋の椅子を足で蹴っ飛ばす。

「なあ、なんだよ今日。誰も喧嘩してねーじゃん、なんかあんの?」

大橋はわざとらしく肩を震わせ、声を発した。
「ああ、あ、あ、有馬くんおはよう。……ここだけの話ね、今日転校生が来るらしいんだ」

「へえー」

なんだよ、そんなことでみんな礼儀正しくしてたのかよ。
つまんねーという顔をしていると、大橋は焦って付け加えた。

「あ、あ、そのね、転校生っていうのが、………女の子なんだって」


女。
確かにそれはこの雰囲気なのも納得できた。



ここ、木更津(キサラズ)高校は全国屈指の不良高校。
共学のはずなのに、いつ何時も喧嘩していて血が飛び散る環境のせいで、女の子なんてあっという間に0人になった。

髪の色は、金、赤、銀、青……と様々だ。
いくら先生が言っても直しはしないので、この高校はもはや無法地帯。
先生も死人が出るレベルじゃないと喧嘩は見て見ぬ振りらしい。