ここにいる全員の視線が、佳穂さんの方へと向く。
けれど張本人である佳穂さんは、黙ったままで声を発さない。
「こいつは、蓮道 佳穂(れんどう かほ)。今年の春で、小学4年になったとこだよな?」
五十嵐さん、八雲さん、佳穂さん。
全員の名前を知ることができたが、よくよく考えると、佳穂さんの言うとおりだ。
なぜ、ただの客に自己紹介なんてさせたのだろうか。
「あの、確かに佳穂さんの言うように、なんで、ただの客に自己紹介をさせたんですか?」
カウンター越しの五十嵐さんは、椅子に寄りかかりながら答えた。
「大切なお客様と距離を縮める良い機会ですからね」
コーヒーを片手に、三人と楽しいひと時を過ごすためにここにきたわけではない。
私は元々、重大な任務を課せられて、この喫茶店に立ち寄った。
わたしは、さっきと同じように、息を大きく吸った。
「あの、一つ。
皆様に、お聞きしたいことがあるんですが」
「なんでもお聞きください」
「ここって、出るんですか?」
その声は、かき消された。
-カランコロン
二人目の来客のようだった。