「何とお呼びしたらいいですか?」
カウンター越しで、コーヒーを淹れているお爺さんは、わたしにそう投げかけた。
「なんでもいいですよ。皆さんの好きなように、呼んでいただければ」
この喫茶店の雰囲気とこの人たちの温かさが、絶妙なバランスで、改めて良いところだと実感したときだった。
「ちょっと待って」
その声は思いもよらぬところから飛んだ。
長身のイケメンに隠れて、その表情を伺うことはできない。
けれど声の調子からして、気分が良くないのは、確かだろう。
「どうかされましたか、佳穂さん?」
小学生くらいの女の子は、佳穂、というらしい。その佳穂さんって子は、不機嫌そうに会話を制止させた。
「ただの客でしょ?
なんでこんな自己紹介とかしてるの?」
反抗期、ではないのかもしれない。
冷ややかな目、冷静な口調。
反抗期というよりかは、子供離れしている、という表現が、佳穂さんには、一番ピッタリだろう。
「佳穂、失礼だぞ」
「だって!」
「お客様の前でなんてことを言っているんだ。ぼくたちの仕事は、きていただいたお客様に楽しんで、落ち着いてもらうことだろ?」
「目、覚ましてよ、八雲。
どうせまた、みえる人を探してるんでしょ?」
「おい、佳穂。本当に」
「なんの関係もない人は、こんなことに首を突っ込んだりしないんだよ?」
さっきまでフワフワしていたイケメンは、八雲というらしい。
八雲さんは子供を叱りつけるように、佳穂さんを叱り始める。
八雲さんよりいくつも年下の佳穂さんも、それに負けじと反抗する。