喫茶今宵の中から、二つの影が飛び出してきた。



「坊ちゃん、どうかされましたか?」


「なんかあったの?」



一人は、七十を過ぎていそうな、けれど髪も生え揃っていて、丁度いい程度のヒゲも生えている男性。



隣には、茶色くうす汚れた熊のぬいぐるみを片手に持っている、背の低い小学生くらいの女の子。



健康そうに見えるお爺さんも、小学生くらいの女の子も、イケメンの彼と同じように、『喫茶今宵』とプリントされたエプロンを身につけている。



つまり、二人ともここの従業員。



「あっ、いや、あの」


「ぼくが店の前にいた彼女にぶつかって、転ばせちゃって」



隣のイケメンは二人にわけを告げると、お爺さんの方が、私に近寄ってくる。



「大丈夫ですか、お嬢さん?
お怪我、ございませんか?」



紳士のようなお爺さんは、優しいまなざしをこちらに向け、そのまま喫茶店の方を指差した。



「良ければ、あがっていきません?
お身体になにかあったら、大変ですし」



そんな大ごとではないのだけど、もう既に二人から誘われていて、断るのは逆に申し訳ない。



「それじゃあ、一杯だけ」



「大歓迎です」



お爺さんは軽く頭を下げて、喫茶今宵の方へと足早に進んでいった。



隣のイケメンも、それに続いて「行きましょうか」とわたしに告げ、ニコッと笑った。