「お名前、伺ってもよろしいでしょうか?」



「桜木せつ子、と申します」



「えっ?」



思わず、その、せつ子さんの、せつ子という名前に驚き、声が出てしまった。



八雲さんは首を傾げて、私を見る。



「どうかしました?」


「あ、いや、なんか普通の名前なんだな、と思って」



「せつ子さんに、失礼ですよ」



佳穂さんが呆れたように、私に注意をする。確かに今の発言には語弊があった。



「いや、そうじゃなくて、なんか、もっと、ろくろ首とかみたいな」



「それは妖怪です。どちらかというと、あやかしの部類です。せつ子さんは、妖怪ではありません。霊です。地縛霊のようなものです」



再び佳穂さんからの鋭い指摘を受け、自分の知識不足を痛感し、反省する。



「まあまあ。今日が初めてなんだから、そんなに厳しく言わなくても」



八雲さんは優しい人だと思う。こんな未熟な自分をフォローしてくれる。



本当は、せつ子さんが来る前に、店の前に貼られていた広告に気づいて、それがなんなのかを、聞いておくべきだった。



せつ子さんが来てからの説明だと、せつ子さんの話と、わたしへの説明の二つを同時に進めなきゃいけないから、ややこしいことになる。



けれどここにいる以上、困っていそうな人が目の前にいる以上、首を突っ込むしかない。