「まだちょっと、良く分かっていません」
「当然です。最初は皆、そう言います。
だから口で説明するよりも、見てもらった方が良いかと思います。
どうぞ、お入りください」
半ば強引に、また店の中へと引き戻され、そこでわたしは頭の中に仮説を立ててしまった。
さっきまで私のとなり座っていて、今でもそこに座っている彼女も、霊なのではないか。
「じゃあ、彼女も?」
「さあ?俺には全く」
「ええ、そうですよ」
ここまで説明してくれた八雲さんは、ここにきて分からないと投げ出し、ここまでの会話の流れをなに一つ知らなかった五十嵐さんが答える。
この違いは、なんだろう。
フワフワしているか、していないかの違い?
「やっぱり」
五十嵐さんが返事するのと同時くらいのタイミングで、佳穂さんが呟いた。
確かに聞き取れはしたけれど、またわたしが変なことを口にして、機嫌を損ねられちゃ困るので、口を閉じた。
出る、と言われて、散々恐れていたのに、不思議と目の前にいる〝霊〟を怖いとは思わなかった。
それは普通の人間と同じ見た目だったからかもしれないし、むしろ本当にいるんだ、と感心するほどだった。
あまり驚きすぎても、怖がり過ぎても、詰め寄り過ぎても失礼というか、この場にいづらくなるだけ。
適度な距離、と心に決めて、元々いた場所に戻る。