あまりの謎の行動に、漠然として
それを眺めていると、私は気づいた。


「ニャー」


「え、猫!?」


「!」


猫が木の上で降りられずにいたことに気づき、
驚いて無意識に私は声を発してしまった。


そのせいか、彼は肩を一瞬ビクリと
強ばらせれば、後ろの私に気付く。


「え、」


「あ……」


それをきっかけに、お互い初めて顔を合わせたと
思えば、それはなんとも見覚えのある人物だった。


なっ、な………っ


「伊月先輩!」


もう一度、私は声を大きく言い放つものだから、
今度は猫の方が驚いて、警戒心を与えてしまった。


「ニ''ャー!」


「わっ、ばか───」



─────バシャッ!



猫は、木に降りれないにもかかわらず、危機感よりも私達による警戒心に反射的に身体が動いてしまったようで、あろうことか先輩の顔面にダイブしてしまった。


「せ、先輩っ」


伊月先輩はそのまま地面にもたれついて
しまい、制服が汚れてしまった。


しかし猫はがっちりと腕の中に包み込み
フォールドしていたので、その子は無事だった。


「あーもー…」


先輩は今の現状に声を漏らせば、
はあ、とため息をついた。


その後も、恩人であるだろう伊月先輩に、
猫は指を引っ掻いて逃げてしまう。


「っ…」


ああ…。


なんという痛々しい恩返しだろうか。なんて、何秒ほどか他人事のようにその姿に同情すれば、先輩の元に駆け寄り傘を差した。


「ご、ごめんなさい先輩」


私が急に声を上げちゃったから…。


私は申し訳なさそうに先輩に謝りハンカチを
手渡せば、彼はそれを受け取り応えた。


「本当不意打ち…、後輩に一本取られた」


なんて、少し不機嫌そうに言うものだから、
さらに同情した。


私よりツイてないな、この人……。


「い、今なら私、先輩に優しく
出来そうです…」


「日頃からしてくれる?」