……
時刻は8時半、一通り朝練が終わり、
後片付けを済ませれば、解散した。
朝練が終わったことにより、私は低く束ねていた髪をほどくと、背後から佐藤先輩に声をかけられた。
「お疲れ〜」
「あ、お疲れ様です」
「どー?マネの仕事は」
相変わらず能天気な口調に、
先輩ながらも緊張感が解れる。
初めては裏を返したりして、彼のそれが怖いと
思っていたのに、今はちっとも思わなくなった。
「なんか…こう…眩しいです」
「あはは、なんだそれ」
自分でも今のは年寄りくさいなと思い、
苦笑いした。
「あ、そうそうこれ、部室の鍵」
「?」
「これ理沙ちゃんが日誌と一緒に戻しに行くはずだったんだけど、あの子忘れたみたいだから、代わりにお願いしてもいい?」
佐藤先輩はそう言って私に鍵を渡すと、付け加えるように「たまーに抜けてんのよ、理沙ちゃんは」と、陽気に笑っていた。
その言葉だけで、ああ、本当に理沙は
みんなに愛されているんだと改めて思った。
「はい、わかりました」
私は鍵を受け取ると、にこりと
それを受け入れた。
そんな私に、先輩はひらりと手を振り、
再び応えた。
「じゃあお疲れ、“伊織ちゃん”」
「!」
私の名前……。
名前を呼ばれたことが珍しくて、
なぜか表情がパッと綻んだ。
「は……はい」
…それは多分、
私はちゃんと“この場所”に認識されていて、ちゃんと、先輩方の中に自分は形あるものになっていたと感じたから。
こんな事を思うのもおかしな話だとも思うけど、なんだかそれが嬉しくて、それと同時にホッとした。
それは佐々木さんとは少し違う…
何だか形容しがたい安心さだった。