そう思い、1つため息をつけば、
扉を開いた。


私が帰ってくるなり、お兄はすぐに
玄関まで出迎えてくれた。


「おかえり、遅いよ」


「…ごめんなさい、ただいま」


そう言えば、お兄は拳を作り優しい力で
私の頭をぽかりと叩いた。


それだけ説教が終われば、
お兄は踵を返し私に問う。


「ご飯は?」


「あ、食べる」


「手洗えな」


「はーい」


廊下を通れば、スパイスの効いた
強い香りが鼻をかすめた。


今日はカレーか。


何カレーだろう、なんて思いながら
手を洗い、クツクツと鳴る鍋を覗き見た。


「キーマカレー」


通りで香りが強いと思った。


1人ぼそりとそう呟けば、お兄は
ひょっこり顔を出して首を傾げた。


「だめだった?」


「ううん、すごく美味しそう」


そう言えば、お兄はホッとして冷蔵庫から
昨日の残り物のポテトサラダを出して私に
言う。


「伊織も手伝って」


「うん」



いつも家事はほとんどお兄がやってくれて、大学で遅くなるときは冷蔵庫に作り置きをしてくれる。


決して面倒な訳ではなく、何度か自分でもやってみたりした事もあるが、料理や家事はからっきしだめだった。


洗濯機は壊すわ、料理も何度か失敗して、
仕事が増えるだけで。


その姿にお兄は呆れてしまい、私が今任されている家事は服を畳んだり、おつかい程度のもの。


だからせめて、こうしてお兄が私を頼ってくれている所はしっかりしておこうと思った。


「そこいたら火傷するよ、ドジなんだから
こっち来な。はい、盛り付けね」


「…」


……頼り甲斐はないみたいだけど。