眉を細め頬を膨らませれば、体育館から首相が
佐藤先輩を指差し怒鳴っていた。


「佐藤!モップは!?」


「げっ、ごめん俺戻るね」


「あ、いってらっしゃい」


なんと後味の悪い去り方なのだろうと、
無自覚な先輩の辛辣さに空笑した。


それに慣れるつつある自分も大概だけど。


なんて思いながら、部員の荷物を体育館まで持って行こうと部室に行けば、不意に他校の人の会話が耳に入った。


「本当かよー」


「だーから、本当なんだって!」


「あ、まじだ、牧野真衣(まきの まい)が
近くで撮影してるらしい」


「ほらー、ネットでも言ってんだろー」


男子たちは興奮気味にケータイを
凝視すれば、そう言ってすれ違った。


牧野真衣……ってテレビや雑誌で
よく聞く名前のモデルさんだ。


へえ、近くに来てるんだ。


「……」


いつしか彼女がインタビューを受けていた
ニュースをテレビで見た事があった。


〝運が良かっただけです〟


なんの取材だったかは今はもう忘れてしまったけど、その一言が私の中でとても印象強かったのを覚えている。


すごく、かっこいいと思ったんだ。


それと同時に、住む世界が違うんだなーって、
ぼんやりしながら感じて…。


それはもう、異次元レベルに。


まあ、画面の向こう側でしか見た事ないから
かもしれないけど。


なんて、1人苦笑いした。


「ふーん、そっか…」


一目、見てみたいなあ────。