『笑ってる顔、珍しいな・・あぁそうか、今までは苦手な事だったからかな』

スマホやタブレットの使い方を教えている時は、表情が硬く、難しい顔をしていたが、今日の凱はずっと雰囲気が柔らかい。

『仕事を離れてリラックス出来たのかな、だといいな』

「溶けるぞ」

凱の事を考えて、ぼんやりしていたので、慌てて手を動かす。

チラリと凱の方を見ると、上着を脱いでいた。

「今日は夏みたいですね」

先ほどまでの館内とは違って、屋外に屋根があるこのスペースは少し汗ばむ位暑かった。

目の前を泳ぐ魚アシカは水の中なので涼しげに見える。

「あぁ。水の中はさぞ気持ち良いだろうな」

「本当ですね。」

就職してからは友達と中々休みが合わず、出かけても買い物程度だったので、今日のように誰かとゆっくりとした時間を過ごすのは久しぶりだった。

しかも、あまり気を使わなくていいのが更に楽だった。

凱の口数が少ない事を補うように、喋ろうかとも思ったが、沈黙が気まずくないので、無理に話す事をしなくていい。

ゆっくり休憩してイルカショーとアシカショーを見てから水族館を後にした。