先生はガラガラした声で説明しながら、黒板に黄色のチョークでで大事なところを書いていく。
解く問題は違っても、自己流の解き方を教えられるのは変わらなかった。
うん。わからない。
余裕のある時期から教わるより、直前に火事場の馬鹿力で詰め込む方が点を取れる。
それでもやらないよりはましだ。同じ火事場の馬鹿力でも、授業中の話を欠片でも覚えていた方がやりやすい。
配られたプリントを睨み、覚えているところから解いていく。行き詰まってからノートを見て、これかなと思う式に当てはめた。
なんか頭がぼんやりしてきたな、と頬杖をつく。すると頬が暖かいを越えて熱くなっているのがわかった。
頬は熱いのに足は冷えるしバランス悪いな。
早く帰りたい。隣にいたはずの乙女はいつのまにか席を離していた。
またトイレかな。
ペンを置き、ドア付近に目を移すと、由紀ちゃんも来ていることを知った。由紀ちゃんはバスで私の隣にいた、そこそこ話す友達だ。
由紀ちゃん元から成績いいのに、真面目だね。いや、真面目で成績がいいから来ているんだ。
ズレた黒縁の眼鏡を上げる仕草がそういうイメージをさらに固めた。
「田畑さんさ、私が席変わってって言っても変わってくれなかったんだ」
由布さんの不機嫌そうな、トーンを落とした声が耳に入る。
由布さん、由紀ちゃんと席を一つ挟んだところにいる。由紀ちゃんに聞こえてるよね。
私は不穏な空気を感じ取ったものの、流石に悪口にまでは発展しないだろうと思っていた。
「どうせぼっちなんだから譲ってもよかったよね?」
「ほんと意味わかんないよね」
目の前が暗転する。
座っていてよかった。立っていたら倒れていたかもしれない。
私が信じていた平穏は、崩れ去った。
このクラスの女子はグループ関係なく話せて、悪口も言わないって。私は勝手に信じていた。
由紀ちゃんは目が悪いから前の席を譲れなかったんだ。そう言えば一応は納得してくれるかもしれない。
しかし、事情を考えようとしないまま悪口を言ったという事実は消えない。
自分がブスと言われたときよりもショックを受けた。
「由紀ー」
「美耶ー今行くよー」
聞こえていたはずだけど、由紀ちゃんは何事もなかったかのように片付け、友達のところに行く。
「すごい顔してんじゃん」
「私あの子嫌いだし」
「やっぱり。美耶ちゃんに近付こうともしないもんね」
悪意が連鎖する。
私を助けてくれたり、掃除の時も一緒の子が……。
いつもよ穏やかな笑顔が、悪意で歪んだ瞬間を忘れられないだろう。
一学期のときは美耶ちゃんとも楽しそうと話してたよね?体育のとき、由紀ちゃんの奮戦で一点取ったらみんなで喜んだよね?
こんなことになってるって知らなかったのは私だけ?
人と必要以上に関わろうとしないから、人の暗い部分を見ずに済んで、平穏を信じ込んでいた。
そう考えると自分が愚かで仕方がない。
ショックに打ちのめされていたとき、後ろから声をかけられた。
これは大和さんの声じゃないし、複数人の気配がする。
「あなたが浅野 思意さん、で合ってる?」
「あ、はい……」
靴を見ると色が同じだから学年は同じだ。
ということは他クラスの子だ。
「よかった。実は話があるんだ」
目を細めて微笑む目の前の女子を信じていいのかわからなかった。
「由紀ちゃんのためなの。付いて来てくれる?」
微笑みを崩さず、首を傾げた。
由紀ちゃんのためと言われれば、付いて行くしかない。
「でも友達がいるからちょっと待って。先に言ってから……」
「あ、それなら一人残しておくから代わりに言ってもらうよ。寒いし早く終わらせたいからね」
席を立った私の背中を強引に押す。後ろから迫られ抵抗もできず、寒い廊下に押し出された。
解く問題は違っても、自己流の解き方を教えられるのは変わらなかった。
うん。わからない。
余裕のある時期から教わるより、直前に火事場の馬鹿力で詰め込む方が点を取れる。
それでもやらないよりはましだ。同じ火事場の馬鹿力でも、授業中の話を欠片でも覚えていた方がやりやすい。
配られたプリントを睨み、覚えているところから解いていく。行き詰まってからノートを見て、これかなと思う式に当てはめた。
なんか頭がぼんやりしてきたな、と頬杖をつく。すると頬が暖かいを越えて熱くなっているのがわかった。
頬は熱いのに足は冷えるしバランス悪いな。
早く帰りたい。隣にいたはずの乙女はいつのまにか席を離していた。
またトイレかな。
ペンを置き、ドア付近に目を移すと、由紀ちゃんも来ていることを知った。由紀ちゃんはバスで私の隣にいた、そこそこ話す友達だ。
由紀ちゃん元から成績いいのに、真面目だね。いや、真面目で成績がいいから来ているんだ。
ズレた黒縁の眼鏡を上げる仕草がそういうイメージをさらに固めた。
「田畑さんさ、私が席変わってって言っても変わってくれなかったんだ」
由布さんの不機嫌そうな、トーンを落とした声が耳に入る。
由布さん、由紀ちゃんと席を一つ挟んだところにいる。由紀ちゃんに聞こえてるよね。
私は不穏な空気を感じ取ったものの、流石に悪口にまでは発展しないだろうと思っていた。
「どうせぼっちなんだから譲ってもよかったよね?」
「ほんと意味わかんないよね」
目の前が暗転する。
座っていてよかった。立っていたら倒れていたかもしれない。
私が信じていた平穏は、崩れ去った。
このクラスの女子はグループ関係なく話せて、悪口も言わないって。私は勝手に信じていた。
由紀ちゃんは目が悪いから前の席を譲れなかったんだ。そう言えば一応は納得してくれるかもしれない。
しかし、事情を考えようとしないまま悪口を言ったという事実は消えない。
自分がブスと言われたときよりもショックを受けた。
「由紀ー」
「美耶ー今行くよー」
聞こえていたはずだけど、由紀ちゃんは何事もなかったかのように片付け、友達のところに行く。
「すごい顔してんじゃん」
「私あの子嫌いだし」
「やっぱり。美耶ちゃんに近付こうともしないもんね」
悪意が連鎖する。
私を助けてくれたり、掃除の時も一緒の子が……。
いつもよ穏やかな笑顔が、悪意で歪んだ瞬間を忘れられないだろう。
一学期のときは美耶ちゃんとも楽しそうと話してたよね?体育のとき、由紀ちゃんの奮戦で一点取ったらみんなで喜んだよね?
こんなことになってるって知らなかったのは私だけ?
人と必要以上に関わろうとしないから、人の暗い部分を見ずに済んで、平穏を信じ込んでいた。
そう考えると自分が愚かで仕方がない。
ショックに打ちのめされていたとき、後ろから声をかけられた。
これは大和さんの声じゃないし、複数人の気配がする。
「あなたが浅野 思意さん、で合ってる?」
「あ、はい……」
靴を見ると色が同じだから学年は同じだ。
ということは他クラスの子だ。
「よかった。実は話があるんだ」
目を細めて微笑む目の前の女子を信じていいのかわからなかった。
「由紀ちゃんのためなの。付いて来てくれる?」
微笑みを崩さず、首を傾げた。
由紀ちゃんのためと言われれば、付いて行くしかない。
「でも友達がいるからちょっと待って。先に言ってから……」
「あ、それなら一人残しておくから代わりに言ってもらうよ。寒いし早く終わらせたいからね」
席を立った私の背中を強引に押す。後ろから迫られ抵抗もできず、寒い廊下に押し出された。