「そうだ。渡してくださった人から花言葉を想像して調べるのはどうでしょう?例えば、卒業直前の友達だったら、友情とか……」


我ながらいいアイデアだと思う。
返答によってはちょっとモヤモヤするけど。


「そうだな……嫌いだとか、永遠の別れとか、とにかく嫌いなやつに渡しそうな花言葉で調べてほしい」


「ええ……どんだけネガテイブなんですか」


本当誰から渡されたんだろう。別の意味でモヤモヤする。
気になるけど、安芸津さんの顔の陰りや、悲しげな目を見ると聞けない。


「ちょっと時間がかかりますが……」


「大丈夫だ」


もう少し安芸津さんといられる、なんて内心喜びながらロック画面を解除する。
逆引き辞典で調べ、それっぽいと思った花の種を調べる。


「なんていうか、いちいち戻って調べるのもめんどくさいですね。かといって後で一気に調べるのも、名前を覚えられないし……」


二つのことを同時にするのは苦手なんだ。
花の名前をメモできたらいいのに。


「花の名前を言ってくれたら紙に写しておく」


「ありがとうございます」


安芸津さんは棚から紙を取り出し、どこからかペンを出して待機する。
耳鳴りがしそうなくらい静かだった部屋に、私の花の名前を挙げる声と、紙の上にペンを滑らせる音が生まれる。


「このサイトで見つかったのはこのくらいですね」


左の矢印を押して戻っていき、バーを押して点滅する棒を現す。
スッと差し出された紙を見て、花の名前を入力し、種を調べていった。


結局、確実にわかったものはなかったけど、これではないかなというのはあった。


「金魚草……」


「心当たりはありますか?」


「ああ。そういえばあいつは金魚草を育てていたな……」


この一番小さい粒は金魚草でほぼ間違いないだろう。
あとの二つはまあ……次回以降。


「どんな花言葉なんだ?」


「え、言っていいですか?」


「知りたい」


珍しく食いついてくるので、言いづらい花言葉を述べる。
おしゃべり、でしゃばり、おせっかい、傲慢。なんだかクラスを仕切っていそうな、私が苦手な感じの人物像が浮かび上がる。


「おせっかい、傲慢。確かにそうだな」


「でも、いい感じのもあるんです!大胆不敵、快活、涼しげ、負けない……」


視線を落とし、自嘲気味な安芸津さんを見ていたたまれなくなり、必死でフォローする。
快活、とかは私のイメージから少し離れているけど、もらった時はまた違ったのかもしれない。涼しげ、には大きく同意するし。


「負けない?負けた結果がこうだ」


フォロー虚しく、自嘲がさらに悪化した。激しく振っていた手の行き場を失い、そのままの状態で固まる。
安芸津さんは何で負けたと思っているんだろう。


「なんていうか……心の底から嫌いで、傲慢とか言いたいなら、もっといい言葉も少ないような花を選ぶと思うんです」


傲慢、おせっかい。こう言うといい印象はあまりないけど、見方を変えれば自分のすることに自信を持っていて、だから他人のためになると信じてついつい世話を焼いてしまう人に思える。


嫌なところはあったけど、いいところも同じくらいあって、嫌いになりきれない感じがする。


「渡した人とその時どんな関係だったかは知りませんが、多分、安芸津さんが思っているほど嫌ってないと思います」


俯いて、目には前髪がかかったままだ。じっと見つめても動かない。
なんだか立場が逆転した気がする。