時間が迫ってきたから、片付けて教室に向かう。教室に向かうのは私一人じゃなくて、前に同じクラスの女子がいる。けど特に仲がいい訳じゃないから、一人で向かっているとも言える。


教室では、ほとんどの人が体操服に着替えて揃っていた。
席に着いて頬杖をつきながら、SHLの説明を待つ。


チャイムが鳴ると、先生は待っていましたとばかりにファイルを開いた。


鳴り終えると、日直がだるそうに号令をかけた。浅く礼をして着席する。


「はい、今日はマラソン大会です。えー今日は……」


何を話すかは想像がつくので聞き流していた。
リュックサックの中に制服が入った袋を入れ、これからバスに乗り込む。


マラソン大会のためにわざわざバスを用意するなんて……この学校は改装工事が終わった後で貧乏じゃなかったの?
先生たちのやる気にうんざりしていた。でも最近学生の体力が落ちているみたいだし、そうなるのもわからなくもない。


友達の横に座り、背もたれにもたれる。
友達はイヤフォンをつけ、画面を横にしてゲームに熱中していた。
バス内でもあまり話すことはないだろうけど、このくらいの距離感が楽だ。


私もスマホを取り出し次の小説を読み進める。過去の出来事が原因で心を閉ざした主人公が、放課後の教室であまり話したことがない男子の秘密を知る。主人公は誰にも話さないと約束した。男子は主人公のことが気になり、主人公との距離を縮めようとして……。


主人公の秘密も気になるし、この藤谷君が優しくて癒される。


高速道路に入った頃、目が疲れてきた。
本当はもっと読み進めたいんだけど、ここで目が疲れたり、気分が悪くなるのは避けたい。
窓から飛ばしていく車を見下ろす。視線を上げていくと、冬でも深い緑の山が見える。


スタート地点は大きな公園だった。
家の周辺以上の田舎でマラソンか……。避けられない疲労への不安が、喉で渦巻いていた。