そういえば、芽出てるかな?
考えを固めた後に思い浮かんだのは、種のことだった。テンションの落差に自分でも酔いそうになる。


家に帰る時間を引き延ばしたくて、数日しか経ってないのに安芸津さんのところに向かった。


外に安芸津さんはいない。鉢に駆け寄って、すぐに結果がわからないようにと上目にしていた視線を落とす。


出ていない。
まあそうだよねと思いつつ落胆する。


帰ろうと体を横に向けた時、ガラガラとドアが開く音がした。


「安芸津さんっ!」


「人影が見えたと思ったら、やはり君だった。ありがとう。美味しかったよ」


そう言ってもらえて気分が急上昇する。
自分が選んだもので喜んでもらえるのはやっぱり嬉しい。


「よかった……」


「それで……ちょっと時間があるか?」


安芸津さんは戸に手をかけながら聞いた。


「はいあります!ていうか暇です」


「ならよかった。実はまいていない種があるんだ。見て心当たりがあればその花の名前を教えてほしい」


種から見てわかるのなんて、朝顔やヒマワリくらいだ。でも実は朝顔やヒマワリで、そりゃこの時期に植えても出ないよねーみたいなことがワンチャンあるかもしれない。


「はい」


当てたら喜んでもらえる、と僅かな希望を抱きながら敷居を越える。
ひんやりした玄関で立ち止まると、振り向いた安芸津さんが後ろ手を差し出す。


「ここでは寒いだろう。遠慮なく上がってくれ」


寒かったから素直に上がった。