「やっぱ乙女の話キツいっすな。いじめでここ来てるやつ多いし、話聞くことも多いけどやっぱどの子の話もキツいっす」


綺麗な顔を歪め、足をばたつかせた。


「うん。私も乙女ちゃんと同じ理由だけど……他人に話せない。泣き叫んじゃって、話にならないんだって。カウンセラーさんを困らせちゃったよね」


黒澤さんの髪を触りながらの話から暗い闇が垣間見えた。


「おいらはまあ荒れてて、学校めんどくさいから行きたくないって引きこもったんすよ。家族はウザいけど、教師からも腫れ物扱いされてたしいいやって。そしたら一応入ってた美術部の顧問がここに引っ張ってきたんす。昔はめんどくさって思ったけど、今はそのことに関して感謝してるっす」


川芹さんは最後に照れくさそうに笑う。


「大和さん、あのさ、どうして学校来ようと思えるようになったの?」


一番聞きたかったことを切り出した。


「ん、漫画家になりたいから。話の舞台が高校になることも多いやろって言われたし、すぐに漫画家になれるわけじゃないから。それまで働かなあかんやん。高校卒業してへんかったらまともな職に就けないし、ここはやるしかないなって」


大和さんは歯を見せて笑った。


「すごいね。叶えたい夢なんだね……」


「うん。夢と苦痛を天秤にかけたら夢が勝ったねん」


大和さんのここ一番の笑顔にうんうんと頷いた。
眩しすぎて直視できない。


「乙女、浅野にあれ見せてあげるのはどうっすか?あ、浅野漫画好きっすか?」


「好き!」


食らいつく勢いで言った。
大和さんはいそいそとロッカーに向かい、多くの紙が挟まったクリアファイルを差し出した。


中身はネームだった。一度は編集者に憧れたものとして、めくる手が震える。
セリフからして引き込まれる。ざっくりとした絵だけど、一人気になって仕方がないキャラクターもいる。


「能力系好きだから気になる!あのさ、この八島くんが好きなんだけど!」


興奮で体を震わせながら、声が止まらない。


「そう言ってもらえてうれしいわ。私も八島くんは気に入ってるねん」


「八島くん、いいよねー」


「八島も好きっすけどやっぱジョーカーっすわ」


同じ作品のことで盛り上がることができて、本当に楽しかった。
この楽しかったことや、大和さんの直向きな笑顔が辛くなった。


学校に来たら、これが消えてしまうかもしれない。