「小学生の……高学年くらいや。実は私、その頃まで支援学級に通ってたねん。軽度の発達障害と診断されて。それでも頑張って勉強して、友達もできて、通常学級に通えることになった」


大和さんを見ていたけど、今まで全然気付かなかった。発達障害という言葉が、心にのしかかってくる。
昔がどうだったかは知らないけど、ここまでくるのに努力したのはわかる。


「友達と同じ授業を受けられるし、馴染めるように頑張らないとって張り切ってたわ。不安やったけど。それで、私その頃は無駄に正義感が強かったねん。通常学級に通う前の年、些細な理由で責められる女子がいたんやけど、私が急かしたから失敗したねんとか言って庇ってた」


正義感が強いと聞き、きつく注意してしまったのかと思ったけど、自分に原因があるという形で庇っていた。
そんな子がこの先辛い目にあうと思うと怖かった。


「その頃から学級崩壊するクラスが出てて、うちのクラスではなかったから他人事みたいに思ってたわ。六年生になって、とうとう通常学級に戻り、庇った子とその子の幼馴染と同じクラスになった。すぐに友達になって、今でもその子たちは心配してくれてる」


それを聞いてホッとした。
同じ辛いことが襲ってくる話でも、友達がいるのといないとでは大違いだ。


「最初の席替えで、運悪く問題児の男子の隣になったねん。早々にお前が隣かよ最悪って言われたわ」


大和さんは悪意が込められた言い方を写し取ったかのように再現した。きっと、そのときのことが焼き付いて、今もはっきりと覚えているんだろう。
近くの席を嫌がられたことはあるけど、そんなあからさまに言われたことはない。そのショックは計り知れない。


「学年が始まって数日は平和やったけど、しばらくすると庇った子、秋ちゃんが酷いことされるようになったねん。展示された集合写真に穴開けられたり、筆箱壊されたり。そして私たちにもいじめが広がった」


息をするのも忘れるほど聞き入っていた。
私が見たことのない世界を覗こうとしている。こんなことがあっていいのかと思うような、常識が歪んでいる世界が……。


「一番多いのは菌扱いや。それでも私は秋ちゃんよりまし。秋ちゃんの方がもっと酷い扱い受けてたし。誰も運ばない秋ちゃんの机を私が運んだこともあったわ。それでも辛くなるんやな。秋ちゃんはもっと辛かったやろうな」


思わず唇を噛んでいた。昔のことだからどうにもできなくて、やるせない。
みんな自分も同じ目に遭うのは嫌だから手を出せないというのはわかる。当事者からしたら、怖いのがどうしたの?自分は現在進行形で苦しんでいるんだよと思うだろう。


私も周囲の人になったら、声を出して止めなよとは言いにくい。
でも先生に言うことくらいはできる。大義名分はある。どう考えたってあっちが悪いし、チクリだと言われても何の罪悪感もわかない。


あとで酷い目に遭うと言われても、あからさまにいじめてるんだから逃げ場はないし、怒られて木っ端微塵になれば酷い目に遭わすことすらできないだろう。


表立って注意できないのはわかるけど、先生にも言わないのは援護できない。