校門のすぐ後ろにある時計は八時五十分を指す。こんな時間でも焦らずに歩けるのが新鮮だった。


新校舎の隅にある綺麗なドアの上には、選択教室IIと書かれたプレートがせり出している。


前半分が埋まる程度に人は来ていて、その中には制服を着た大和さんもいた。
大和さんは一番後ろでいづらそうにしていた。


「おはよう」


「おはよう。よかったー、来てくれなかったらどうしようかと思ったわー」


強張っていた顔が緩んで、私も良かったと思いながら腰を落とした。


数学の先生は黒板に、癖のある字を書き連ねていく。
換気しないからか悪くなった空気と連立方程式のせいで頭痛を起こしつつあった。


先生がこのやり方なら間違えないと言って、教科書には書かれていない式を使い始めた。


今まで中学で勉強してきたのはなんだったのか。受験生の時に必死になって覚えた式を崩され、唖然とした。
今までの経験で、数学の先生は自分が考えた解き方を教えたがる、そして途中式を書かせたがると学んでいた。あと字に癖があってお世辞にも読みやすいとは言えないとか。


これは先生がおすすめする解き方を使って、なおかつその途中式を書けということだ。
ベルトに膨らんだ腹を乗っけた先生は、教科書の方がわかりやすいならそっち使ってもいいけど、こっちの方が断然わかりやすい!とチョークで黒板を叩いた。


使えって言ってるようなもんだ。
慣れた方法で解いて間違えたら、先生の言った方がわかりやすかっただろ?と言われるパターンだ。


数学の授業は自分がわかりやすいと思った方法をすすめる時間じゃない。混乱する私に反して、得意気に話す先生に苛立ちを覚えた。
自主勉強のせいで逆に数学嫌いが加速した。