民家が立ち並ぶ駅に運ばれ、電車とホームの隙間を踏み越える。
冷たい空気に包まれ、温まった体がまた冷やされて行く。


改札に切符を突っ込んだ後、寒空の下でそびえ立つ山を仰ぎ見た。
今日はフリースクールには行かない。大和さんがいないし、あの二人もいるかどうかわからないから。


じゃあなんでこの駅に来たのかと聞かれれば……ただの散歩だ。
マラソン大会で景色を見るのを楽しみにするくらい、知らない場所を見るのは好きだ。


この季節じゃなければもっと面白そうだけど、あの家にいるよりはいい。
車も通らない道をずんずん進んで行く。


殺風景を置いて行きながら、何か面白いものはないか探す。
すると、フリースクールに行く途中にあった派手な自動販売機を見つけた。しかし、ここは違う道だ。


同じ町に二つもあるの……?
ここの町の人は派手好きなのかなと思いながら、せっかくなので買うことにした。
お金を入れて、オレンジ色の光を放つボタンを押すと、勢いよく落ちてくる音がした。取り出し口の透明なカバーを手の甲で押し込み、ココアの缶を取り出した。


親指に力を込めてタブを起こす。プスッと音がして、少しココアが溢れる。
最後に人差し指をひっかけて戻すと、フタが缶の中に隠れて飲めるようになった。


実は中学生になるまで自力で缶を開けられなかった。
指の肉が強く押されてへこむ感じが苦手なのと、普通に力がなかったから。


でも最近はペットボトルで温かい飲み物が買えるし、ストローを刺せばすぐに飲めるカップもある。
学校でも外でも、ストローを刺したカップを持ち歩く人をよく見かける。
もしかしたら、缶の開け方を忘れたり、知らないって人が増えていくかもしれない。


いつか缶も消えていくのかな。
ペットボトルが使われなくなっていくような時代も生まれるかもしれない。
その時、まだペットボトルなんか使っているの?環境のことを考えていない!なんて非難をする人が現れるのかもしれない。


全ての人がすぐに変わることの難しさを忘れているんじゃないかと思う。
強く言えば変わる、そして強く言える自分はすごい、という沼にはまれば、他の人の声が聞こえなくなっていくかもしれない。