電車を降りると、家はもうすぐという気持ちが大きくなり、一歩近づくたび足が重くなっていた。


帰ってきたら真っ先に成績を聞いてくるだろう。
寒いけど帰りたくない。現実逃避のためスマホに手を伸ばそうとしたけど今は歩いている最中だ。行き場のなくなった手はとりあえず冷えた頬に沿おうとした。すると喉の奥に咳の種が生まれたため、急遽口を押さえた。


二回ほど咳き込んでから再び歩き始める。
足を動かし続ければ嫌でも家が見えてきて、仕方なくドアを開けた。


パートを休んだお母さんはこたつから出て、おかえりと言って私を迎えた。
成績表の催促が滲み出る目に耐えきれず、顔を背け、居間を見据えた。
床にリュックサックを落とし、中を探ったあと、抜き取った成績表を差し出す。もちろん、今回は五段階評価だということを忘れずに伝える。


まじまじと見るお母さんは、端まで行った後、ふぅんと頷いた。


「五はいいよね。社会とかも四だし……あとは数学と体育の二だね。体育は仕方ないとして、数学は勉強量がちょっと少な過ぎたからなぁ……」


裏から透けて見える数学の二を爪で叩く。
勉強したって悪いのはわかっているから、もういいやと投げて、他のに時間を割いていた。勉強量が足りなかったのはわかっている。なら言うことは……。


「次は数学でも三とれるようにするよ。他の教科でも四を増やせば今回のもカバーできるし……春休み自主勉強に行くから大丈夫」


この場を乗り切るため、できそうにもない目標を作り出した。
いつも次は頑張ると言いながら、見劣りする成績表を生み出していた。


「次は期待してるからね。下がってたらお小遣い減らすよ〜」


そう言ってお小遣いを減らされたことはない。冗談なんだろうけど、笑えない。そういう笑えない冗談にも疲れていた。


全部五とはいかなくても、得意な教科は五で、苦手な教科でも三、その他は四を取れているような成績表だったら、憂鬱になることもないだろうな。


下がるようなことは絶対ないようにしなければ。上がるのは歓迎するけど、下がるな。


そう肝に命じてセーターの胸元を掴んでいた。