「ここでは勉強してもいいし、それ以外の特技を伸ばしてもいい。アドバイスできる大人もいる。そんなところ。私も通信制の高校に通いながら、ここで友達と話したりわからないことがあったら聞くの」


「そうなんですか……なんか、いいですね」


そんな言葉が出てきたところで、こんなこと言ってよかったのか?と後悔する。
ここに来るまでの道のりは苦しかったはず。不登校ということで社会からはいい目で見られない。みんなが楽な気持ちで通っているわけではないんじゃ……。


そんな考えも杞憂に終わり、三人は笑っていた。


「来てなかったら二人に会えてなかったし、また学校に行こうとも思えなかった」


大和さんとの出会いは、ここが作ってくれたのか。


もっと増えてもいいと思うんだけど、見守る大人の数も足りないかもしれないし、建物もぽんぽん建てられる訳ではないし、難しいな。


「それより、浅野さんってゲーム好き?」


「うん。CMでやってるロゼッタとか……」


黒澤さんに聞かれ、話題にしやすい有名どころから答える。


「まじか。鯖はどこ?」


「高島だよ」


「高島かー逗子ならフレンドになれたのにー」


河芹さんは悔しそうに机を叩いた。


「他にやってるのは?」


「えっと……」


答えに困って先がつまった。
実は乙女ゲームとかくだらなくて説明しづらい放置ゲームなんだ。


仕方ない。引かれたらそれまでだ。


「ビューティフルデストロイヤーと、本能寺の恋ってやつなんだけど……」


本当、乙女ゲームのタイトルは言いづらい。
誰だよビューティフルデストロイヤーとか考えたやつ。企画の時点で恥ずかしくなかったの?


「ビューティフルデストロイヤー聞いたことあるー。なんか武器を擬人化したやつだっけ?」


黒澤さんは恥ずかしいタイトルを臆することなく言ってくれた。
このゲームは古今東西、国を問わずあらゆる武器を擬人化したゲームだ。
単調なパズルと乙女ゲームを合わせたもので、システムはクソなんだけど設定に細かいネタを入れていてそこだけは侮れない、愛すべきクソゲーだ。


「そうそう。キャラがとにかくいいクソゲーだよ」


アプリを開き、興奮で震える手で推しを見せる。


「これがとても可愛い浅井一文字。これは美しいオカン、」


「オカン好き。あの、へし切っている?」


「うん。ちょっと待ってね……」


黒澤さんと私の好みはちょっと違ったけど、推しを追求するもの同士話は弾む。


「明智が一気に病み始めたっ。やばい!」


興味を持った河芹さんがインストールした本能寺の恋で、草を生やしていそうなくらい爆笑した。


「これは炎上不可避だわー」


画面を覗き込み、笑いながら禍々しいオーラを放つ明智光秀に注目する。


爆笑の渦はどんどん上がっていき、教室を飲み込んだ。
本能寺の恋の一つ目のエンドを回収したところで落ち着いた。