「来たでー!」


今までの気弱なイメージを覆す、生き生きとした声だった。
机をくっつけ合わせている二人が大和さんの友達らしい。


「あなたが浅野さん?よろしくね」


腰まである、墨も羨むくらい真っ黒な髪。額を出しているおかげで、白い肌とのコントラストがさらに強くなっている気がした。


もう一人の子はチラッと私を見て一つ笑ったあと、再びスマホに熱中した。
色白で、ブルーライトに当てられ俯いているからか、目の下の隈が強調される。
長い袖から覗く手は画面上を素早く駆け動く。


「浅野 思意です。よろしくお願いします」


「あっ、名前教えてなかったな。大和 乙女(やまと おとめ)です。よろしくー」


「黒澤 秋葉(くろさわ あきは)です」


二人とも名前が可愛くて、ちょっと羨ましい。


「河芹 沙優樹(かわぜり さゆき)っすー」


スマホを床に置いて、やっと顔を見せてくれた。
隈があるけど目はぱっちりしててまつ毛が長い。可愛いのに長い袖の先が黒く汚れていたりしていて、もっと気を使えばモテるんじゃないかと思う。
けど本人はスマホの世界に入り込む方が楽しいみたいだ。


「ここって教室?なんか休日は解放してるとかなの?」


「ここは休日に限らずいつも解放してるで」


顔の横に軽く手を挙げて笑う。


「フリースクールって言うねん」


「フリースクール……聞いたことあるけどこんな感じなんだね」


「うん。ここは学年とか関係なく、学校に行けない子たちがいられる場所。でも友達だったら入ってもいいことにしているの」


黒澤さんが説明を付け足してくれる。


「メンバーとかも結構適当っすよ。籍をちゃんと置いているやつ以外も出入りしてるし」


川芹さんも頭の後ろで手を組み、椅子の前脚を浮かせた状態で、軽く説明してくれる。


「いいの?」


「いーのいーの。うちの県教育にあんま力入れてないし、トラブルにならないならいいって黙認してる。色々あって籍を置けないってやつもいるし、よかったなーって」


真面目な人が聞けば動揺しそうなことを軽く言い放った。
教育に力を入れていないのがこんな方向に行くなんて。でも確かに、籍を置くとなれば先生とかにも連絡がいくだろうし、生徒にぽろっと漏らしちゃう先生に伝わるのは心配だろう。