暖房が効いた車内で、ふかふかの座席に沈み込みながらゲームをする。


ゲームでアイテムを集めている間、駅で人が乗り降りする。
それを繰り返していると目的の駅はもうすぐのところまで来ていた。
アナウンスに気付き窓に目を移すと、古い民家と山は変わらず。向かいのマンションはちょっと汚れたかもしれない。


改札を抜けて外を見回すと、大和さんが手を振ってくれた。


「おはよう」


駆け寄った私は、午前中だからと朝の挨拶をする。大和さんも返してくれて、その後歩みを揃えて進みだす。


ブロック塀が並ぶ静かな住宅街。
人に合わない上、肩までの高さがある塀が並んでいると妙な圧力を感じる。
少し進むと歩いているおばあさんが見え、レジ袋を提げたおじさんとすれ違う。
人がいて安心し、横に向けていた顔を前に戻すと、異様なものが飛び込んで来た。


何だあのシマシマ模様。目がチカチカする。
お店の外壁に背をくっつけるようにして立つのは、ド派手な自動販売機だ。


横を通るとき凝視すると、安さを強調するため値札まで派手だった。肝心の商品まで派手な色合いだったから、もうちょっと見ておけばよかった……と後悔する。


「あの自動販売機すごいね」


「うん。安いでしょ。夏とかはあそこで飲み物を調達するんだ」


たしかに安かったけど、強烈な甘さで逆に喉が渇きそうなジュースが並んでいた。
見てなかっただけでお茶とかもあったのかもしれない。夏場に安いお茶とかがあれば助かる。いいことを聞いた、と頭に保存する。


しかし今は真逆の冬で、頭にまで伸びる筋のような痛みに苦しめられていた。
この痛みは耳からきていた。耳に冷えた髪が擦れる感触が、無防備だということを強く認識させる。
耳なし芳一の話が思い浮かび、手遅れだけど、手袋をつけた両手で覆った。


既視感のある坂道を上りながら、息が切れてきたことに気付く。


気を紛らわせようと、芽をつけ始めた枝先を見る。ここから徐々に葉や花が開いて、春が来るのだろう。


石垣が坂の傾きに合わせてどんどん高くなる。年季を感じる門にかけられた木札には、筆で書かれた綺麗な字で、扶桑花学園とあった。