そして土曜日が来る。
人に会うということでそれなりに見た目を整える。動きやすいジーンズで、上はシンプルにならないようカラフルなニットにする。
その上から厚手のコートに袖を通し、マフラーや手袋で寒さを易々と受け入れない体制を整える。


お父さんとお母さんが仕事に行き、辰也は部屋にこもっているのを見計らって家を出た。


改札に定期を突っ込もうとしたところで、今日は違うんだった、と踏みとどまる。
券売機に小銭を入れ、二百六十円に触れると切符が飛び出て来て、お釣りが出てきた。


駅前の柱では、部活の遠征に行きそうなジャージ姿の学生が集まっていた。
気を取り直して、オレンジ色の矢印が光る改札に突っ込み、通過する。


電光掲示板によると、四分後に電車が着くらしい。
四分くらいだし、手袋を外してスマホを使うほどではない。


アナウンスが入り、黄色い線の近くでそわそわしていた子供を一歩下がらせる。


二人だけ降りた車両に乗り込み、遠慮なく空いた席に座った。
見覚えはあるけど降りたことのない駅。駅名が書かれた看板のすぐ後ろに山が見えていて、古い民家が並んでいた。
その向かいのホームの後ろにはそこそこ新しいマンションが並んでいて、今と昔の境界線のようになっていた。


前のことだから古い民家も少なくなっているかもしれない。もしかしたらそこそこ新しいマンションだったのが、年季の入っているマンションに見えるかもしれない。