「ちょっとしたことでも欠点につながると思ってたんですが……」


「謹慎受けても進級できてるから大丈夫。提出物だって中学より少ないし、遅れて出しても他で頑張れば欠点どころか四はつく。十段階でね」


「そうですか。私字を書くのが遅くて提出も遅れがちだったので……よかったです」


そう言って首を右に傾けた。まだ緊張しているのか、口もとに曲げた指を当て、ぎこちなく笑っていた。
あの子は一年も終わりかけの三月に、高校へのイメージを語った。もしかして高校に行ったことがない?


思いつく理由は色々ある。病気とかで行きたくても行けなかったとか、何かが理由で不登校になっていたとか。
でも二年生の私たちに合流するなら、一年生の単位がなれればいけない。
通信制の高校で取ったとか?でもそんな簡単に転入とかできるのかな?


大和さんは待っている間、手をせわしなく組み直したり、指で机を突いていた。
机から生まれた規則的な音は短く、静かな教室に消えていく。


「そのアクキー可愛いね」


何もすることがないし、静かすぎて落ち着かないので当たり障りのないことを言ってみる。
何かのアニメのキャラクターのアクリルキーホルダーを指差した。


やることもないし、静かすぎて落ち着かなくなったから、当たり障りのないことを聞いてみる。


「ありがとうございます。これ、友達からもらって……」


「いいねぇ。同じアニメが好きな友達がいたけど、高校が違って卒業してから一度も会えてないや」


小学生のときからの友達だったのに。
同じ子とずっと仲良くしてて、新しく友達を作ろうとしなかったから、友達の作り方がわからなかった。
高校入学当初はこのままぼっちになるんじゃないかと焦っていた。そんな風に思っていることを悟られるのが嫌で、垂れ下がった髪で顔を隠していた。


そんな暗い雰囲気を諸共せず話しかけてくれた友達には感謝してる。


「そうなんですか。あの、その友達に今度会いに行くんですが、浅野さんも来ますか?」


「全然知らない人だけどいいの?」


誘われるとは思っておらず、間抜けな感じになっているだろう顔を指差す。


「はい。そういうの気にしない子ですし……。今週の土曜なんですが大丈夫ですか?」


不安そうな上目使いで伺ってくる。


「大丈夫」


「では九時に楓駅を降りたところで待ち合わせです」


大和さんは安心したような笑みを浮かべた。
着々と距離を縮めている。これはいい兆しだ。
このまま他の子より先に仲良くなって……。


階段を上る音がする。私も大和さんも佇まいを直す。
先生が来て、ごめんな、遅くなったと椅子に腰掛ける。


「初日は二時間だし、ちょっと様子見るみたいな感じで来てほしい」


「はい……」


説明はこれで終わり。大和さんは帰るみたいだ。
椅子を戻した後時計を見ると、四十分くらい経っていた。


熱心に練習する運動部の声が遠く響いている。


「さようなら」


「さようなら……」


学校前の横断歩道のところで大和さんと別れる。
大和さんはぎこちなく笑いながら足早に去っていった。