暖かい血の上った顔を容赦なく冷やしてくる空気。
ジャケットの下にセーターを着てても腕には鳥肌が立つ。


とっくにチャイムは鳴ったというのに、教室にはまだ喧騒が残る。
ゲームの結果で一喜一憂し、時には言い合いになる。
クラス一のゲーム好きである上川さんの叫び声が廊下にまで響き渡った。


「大和、浅野、ちょっと待っててな」


階段を上り終えたところで先生が先に行く。
防火扉の影に隠れるようにして待った。


「お前らもう帰れー」


「ちょっちょっと待って!今コンボが……」


横にしたスマホの画面を見つめ、親指をすばやく動かしているところが想像できる。
すると、周囲の笑い声と上川さんの焦る声が聞こえてきた。きっと先生の必殺技、手のひら画面隠しが発動したところだろう。


ぎゃーと断末魔の声が聞こえ、大爆笑が起こる。
その後、許されない……許されないと、突っ伏しているのか少しくぐもった声がした。


「もう萎えた。もう先生絶対許さない!」


憤る上川さんと笑い続ける友達。
上川さんは最後まで恨み節を投げつけながら、友達を引き連れて出ていった。


残るは男子だ。
チームプレイということから、中途半端なところではやめられない。ずるずると続いて居座るのがオチだ。


どうせ歩きながらでもやるんでしょ。早く出て行きなよ。
私がそう思うと、通じたのか教室から出て行く。
今度はこっちの階段を使ってくる。


大和さんの顔が強張っているのを見逃さなかった。
大和さんを隠すようにして立ち、見つめてくるようなら睨んでやろうと思った。


暗いところで立つブスは怖いらしい。コソコソと私の顔を見て笑いながら、そそくさと階段を降りる。


役目は果たした。ブスというのは辛いときもあるけど、役に立つこともある。最低限女子の友達がいればいいという生き方なら、嫉妬されないというメリットもある。
一番いいのは普通の顔なんだけど。


先生が迎えにきたから二人で教室に入る。
二十一番から二十三番の人の席を借りて、机をくっつけた。
大和さんと先生は向かい合い、私は側面に付け足したみたいな席で腕を組む。


先生が紐でとじられた日誌を開き、大和さんに学校のことを教える。


大和さんは俯きながら静かに相槌を打つ。