完全に日が落ち、真っ暗になった午後六時ごろ、扉が開く音がした後お母さんのおかえりが聞こえた。ただいまと疲れ切った低い声がする。


兄の辰也が私の部屋の前を通り、隣の部屋にリッュクサックを落とした。
隣の部屋だから、今マットレスに飛び込んで跳ねたのも、ゲームにログインしたのもわかる。


しばらく無言でゲームを進め、キャラクターの声とBGMだけが響く。
ドンっと爆発音がして、あるキャラクターが呻き声を上げた時、兄は床を蹴り、その振動は私の背中を合わせている壁にも伝わってきた。


「死ねよ!まじゴミ!」


まただ。
辰也は画面の向こうへ届かない暴言をぶつけた。
辰也はゲームをしている時、暴言を吐かなかったことがない。私もゲームをするけどそこまで怒ることはないし、上手くいかなかった時は怒るというよりも、残念だなと思う。そしてそれを声に出さない。


上手くいかなかった時は、そういうこともあるよね、が一番多いし、ゲームは負けても楽しい。
勝ちやすいよう一人だけにされた編成に、主力を集めて挑んだら、完膚無きまでに叩きのめされたこともあった。


レベルマックスのあの子は高速で動き回って攻撃を避け続け、こちらのHPをジリジリ削っていった。攻撃する手段をほとんど失った時、その子はHPを半分削られたくらいだった。


敗北の二文字が浮かび上がり、少しだけの経験値を入手した時、もうこの子に挑みたくないと思った。
その後主力たちも成長し、もうあんなことはなくなった。今となっては、強いよねと言って、笑って話せるけど、当時は愕然とした。


負ける時は大体自分の落ち度か、相手が強すぎるか。
ゲームのキャラクターに愛着が湧いて、ずっと一緒に戦ってきた仲間と思うようになった。そんな仲間のせいにしたくないし、死ねなんて言えない。


一緒にプレイしているメンバーか、思い通りに動かないゲームに文句ばかり言っている。誰かと協力するゲームは辰也に合っていないんじゃないかと思う。


私は、もういらん、死ねと繰り返す辰也にうんざりしていた。
どうしてこうなったんだろう。中学三年の頃から急にこうなってしまった。


そして、安心できるはずの自分の部屋も居心地の悪いものに変わってしまった。