しばらく歩いていると、前方には天敵がいた。


「あー可愛くない女子と顔合わせるか……」


「転校生って一大イベントなのにあんなんじゃ萎えるな」


萎えているわりにはゲラゲラと笑う男子に歩み寄った。


「おはよう!朝から萎えて大変だね!」


二人は肩を跳ね上がらせる。振り返るとニコニコ笑う私がいるのだ。


「なっ何が?」


「あれ、そんなこと言ってなかった?もしかして驚かせて忘れた?」


「いや……何だよ……」


後退りしたあと、足早に私から離れる。
何だよあいつと言いながらも乙女の話題は避けていた。
全く、朝から面白いところを見せてくれるね。


笑える話題を提供するんだから見返りが欲しいというもんだ。
人が人を笑うことを辞めないなら、笑われた人は何らかの形で税を徴収する権利がある。それが嫌なら辞めればいい。


早速面白いところを徴収させてもらった。


「ど直球やな」


「嫌だった?」


「全然。次は私のターンや」


乙女は悪戯っぽく笑う。


学校に着くと、ちょっと寄り道するねと告げる。
職員室に向かい、二階の教室の鍵を取りに来ましたと言う。
先生が代わりに取ろうと申し出たけど断り、鍵をかける板から探し出す。


二階の鍵のネームプレートには、うっすらと生徒会という文字が残っていた。その真下に目的である一階の鍵があり、先生の目を盗んで取った。


ひっそりと去り、誰も通らない道を進む。
名前すらわからない教室に鍵をさし、ドアを開ける。


埃が舞う中、厳重に封じられた段ボールを見つける。私は容赦なくカッターナイフを刺し、封印を解いた。


中には独立風紀委員と書かれた赤い腕章があった。
私はそれを胸ポケットに仕舞い、段ボールを戻す。


そして何事もなかったかのように鍵を閉めた。


結果はどうであれ、学校を変えようとした人がいたことを忘れたくないんだ。


来たる始業式を見守ろう。
あの人たちのやり方に問題がなさそうなら、私は様子を見届け続けるだろう……。


もしも人の心を傷付けるものなら……全力で止めにいく。


そうだ、月子さんなら話を聞いてくれそうだ。もしも新入りが増えたら、初期メンバーだから団体の中でそれなりの立場になるはず。


厳しい性格のリーダーがいるとき、まあまあとなだめる人は際立って見える。
上手くなだめられるようになって、激しくなりがちなリーダーの考えを軌道修正できれば……。


そうこう考えていると、タイミングよく月子さんが階段を上ろうとしている。


「おはよう、月子さん」


「……おはようございます。あの、ごめんなさい……」


「いいのいいの。気にしてないから。顔色悪いけど大丈夫ですか?」


「……怒られるんじゃないかと心配で……。こんなはずじゃなかった。何で不安を取り去ろうとして新しい不安を生んでるんだろう……」


不安に押しつぶされそうだったころの私のように、思いを吐き出す。
その後我に返って、ごめんなさい、こんなこと言って……と焦っていた。


「謝らないで。それにしても大変ですね……」


「あの、私、行かなきゃ……。浅野さん、無事でいてください」


手を振って見送りながら考える。
真っ向から噛み付くのではなく、上手くかわせる人になれば、不安も避けやすくなるのではないかと。


当面の目標は月子さんに近付くことと、新入りの中から話してくれそうな人を探すこと。


リーダーにあれだけ嫌われたし、道は困難なものだろう。
けど、何と言われようとも私は折れない。


私は矛盾ばかりだ。だからなぜそうなったのかを解いていく。
私の人生流されて生きるだけ、とか思ってたけど、よく見ればやることいっぱいだ。矛盾を解いたり人を動かそうとしたり。


困難、だから小説みたいで面白い。