目覚めが広がっていく。体が動けるようになっていく。
右手がピクッと動いた。その時体に痺れが走る。
痺れが治ると私は目を開けた。
薄暗い和室にいた。
記憶を辿っていく。私は道路で倒れたはずだ。マラソン大会中に起こったことなら、ここは医務室?
民家の一室みたいなところを利用するとは。
頭を180度動かすと、棚や小物もあるし本当に人が住んでいる感じがする。
でもこの雰囲気好きだな。
両親の趣味で家は洋風だし、和室で過ごすことなんか滅多にない。
頭を動かすとざらざらするそば殻の枕もいい感じだ。
横になりながら観察していると、床板が軋む音がする。
すぐ近くで音が止み、木の戸が開かれた。
「起きたか」
知らない男の人の、低い声だった。
心臓が跳ね、血の気が引いた。
そうか、本当に人の家なんだ。
よく考えたら先生がこんな地点まで助けにくる訳がない。
「あの……ありがとうございます」
「……当たり前のことをしただけだ。それより、もう苦しくないか?」
目を伏せ、私の枕元に座る。
この人の雰囲気のせいか心臓が落ち着かない。
「はい、大丈夫です」
またドキドキし始めたけどね。心の中では苦笑いしていた。
「そうか」
無表情で、短くそう言った。
先が切り揃えられた真っ黒な長髪、切れ長の目、薄い唇。
この平成に着物を着ているということもあり、異質な存在に見えた。
「学校には連絡しておいた。迎えに来てくれるらしい。バスが通れない道があるから少し待つことになるかもしれないが」
そこまでしてくださったのか。
でも学校の名前なんて教えていない。こんなところでマラソン大会をしていた学校なんて他にないと思うけど……どうして学校の名前と電話番号がわかったんだろう。
上半身がごわごわしていることが気になって、お腹のあたりに視線を落とす。私ジャージの上を着たまま寝てたのか。そりゃごわごわするわ。
そこでジャージには学校の模様があることに気づいた。
なるほど、このジャージはうちの生徒しかきないもんね。この人が卒業生とかだったりすれば電話番号もわかるし、学校名で検索すれば出てくるか。
「マラソン大会は中止だそうだ。すぐに家に帰れるぞ」
「よかったー……まあ倒れたし、どっちにしろ走れないんですけどね」
そこまで言ってから、私は何を言っているんだと口を押さえた。
淡々と話している人にどうでもいいことをもらしていて恥ずかしくなった。
「そうだな。でも他の人も走らなくなったから気が軽くなるだろう」
返してくれた。おまけに少し笑ってくれた。
低い声が心地良くて、頭から離れない。
ちょっとだけ見せたあの笑顔が忘れられなくて、もっと話したいと思ってしまった。
右手がピクッと動いた。その時体に痺れが走る。
痺れが治ると私は目を開けた。
薄暗い和室にいた。
記憶を辿っていく。私は道路で倒れたはずだ。マラソン大会中に起こったことなら、ここは医務室?
民家の一室みたいなところを利用するとは。
頭を180度動かすと、棚や小物もあるし本当に人が住んでいる感じがする。
でもこの雰囲気好きだな。
両親の趣味で家は洋風だし、和室で過ごすことなんか滅多にない。
頭を動かすとざらざらするそば殻の枕もいい感じだ。
横になりながら観察していると、床板が軋む音がする。
すぐ近くで音が止み、木の戸が開かれた。
「起きたか」
知らない男の人の、低い声だった。
心臓が跳ね、血の気が引いた。
そうか、本当に人の家なんだ。
よく考えたら先生がこんな地点まで助けにくる訳がない。
「あの……ありがとうございます」
「……当たり前のことをしただけだ。それより、もう苦しくないか?」
目を伏せ、私の枕元に座る。
この人の雰囲気のせいか心臓が落ち着かない。
「はい、大丈夫です」
またドキドキし始めたけどね。心の中では苦笑いしていた。
「そうか」
無表情で、短くそう言った。
先が切り揃えられた真っ黒な長髪、切れ長の目、薄い唇。
この平成に着物を着ているということもあり、異質な存在に見えた。
「学校には連絡しておいた。迎えに来てくれるらしい。バスが通れない道があるから少し待つことになるかもしれないが」
そこまでしてくださったのか。
でも学校の名前なんて教えていない。こんなところでマラソン大会をしていた学校なんて他にないと思うけど……どうして学校の名前と電話番号がわかったんだろう。
上半身がごわごわしていることが気になって、お腹のあたりに視線を落とす。私ジャージの上を着たまま寝てたのか。そりゃごわごわするわ。
そこでジャージには学校の模様があることに気づいた。
なるほど、このジャージはうちの生徒しかきないもんね。この人が卒業生とかだったりすれば電話番号もわかるし、学校名で検索すれば出てくるか。
「マラソン大会は中止だそうだ。すぐに家に帰れるぞ」
「よかったー……まあ倒れたし、どっちにしろ走れないんですけどね」
そこまで言ってから、私は何を言っているんだと口を押さえた。
淡々と話している人にどうでもいいことをもらしていて恥ずかしくなった。
「そうだな。でも他の人も走らなくなったから気が軽くなるだろう」
返してくれた。おまけに少し笑ってくれた。
低い声が心地良くて、頭から離れない。
ちょっとだけ見せたあの笑顔が忘れられなくて、もっと話したいと思ってしまった。