戸が開くと、笑みを浮かべた二人が入ってきた。


「え、あんらさん?」


「待ってとは言われたけど、場所は指定されてなかったから」


気が抜けるような展開じゃなくてよかった。ひっそりと去るのには失敗したけど、最後に二人を見れてよかった。


「その……先に言ったことは忘れてくれ」


恥ずかしそうに顔を真っ赤にして言う安芸津さんに、わかってますというように笑いながら二回軽く頷く。
二人に道を譲り、見送る。


「もうすぐ雨が降りそうだから、そこの傘をさすんだぞ」


開きっぱなしの戸のそばに傘立てがあり、寄り添って三本ささっていた。


「さようなら」


「今日はありがとうね」


二人に手を振り、傘立ての方に向き直ると、ここにあるビニール傘を使えってことかなと思った。


しかし、長居は不要だ。
向こうの部屋の戸がぴしゃりと閉められた。


こちらもゆっくり静かに戸を閉め遮断する。
返しにくる必要もないな。


私は傘を持たず、足早に去った。


意味もなく坂道を駆け下り、風にのって昔の自分を吹き飛ばしたかのような気分になる。


これで私は完全に新しい自分になれた。
気が済んだところで止まり、花言葉を思い返す。


ラベンダーは、不信感、沈黙、期待、私に答えてください。
ゴデチアは、変わらぬ愛、お慕いいたします。


やっぱり二人はそういう運命なんだ。
一度信じられなくなっても、傷付けても、また好きになるんだろう。


勝てないな。


それでも私は役目を果たしたはずだ。
悲しいけど、上手くやれたよね。


ポタポタと雨粒が降ってくる。やがて間隔が縮まり、道路を黒く濡らしていく。


分厚い雲からゴロゴロと雷が鳴る。


また駈け下り、還っていく。もうあそこに行くことはないだろう。
横殴りの雨にぶつかっていきながら、雷が落ちるより先に駅に向かおうとする。


雨で視界も良くない中、ぼんやりと現れた駅の照明を見て、達成感に包まれた。