胸元の部分をぎゅっと掴み、覚悟を決める。


「安芸津さんを連れてこようと思います。二十分、待ってくれますか?」


「ええ……大丈夫だけど……。いいの?」


「はい」


宣言してから反転し、坂を駆け上がる。
坂を蹴り上げ、また次の足を繰り出す。上っていくほど心臓が引っ張られているみたいにきつくなるけど走ることはやめない。


家の前でブレーキをかけ、息を整えながら呼び鈴を鳴らす。


「君、用事は?」


「用事ってほどのことじゃないけど、ちょっと大げさに言ってみただけです。さっきはごめんなさい」


息が混ざって薄まった声だったけど、真っ直ぐに安芸津さんの目を見た。


「いや、俺も悪かった。返事くらいはするべきだった……でもまだ、あんらと話せそうにない」


「それは大丈夫ですよ。時間はまだ充分にあります。あの、ちょっと大事な話があるんですが……いいですか」


安芸津さんが頷くと、私は敷居をまたぎ、また靴を脱ぐ。


「で、なんだ?話というのは」


さっきのことがあるから慎重に腰を下ろす。
本当にやるのか?と自分の中でも疑問が浮かんできた。
勇気が出ず、舌先で前歯を突いていた。正座した足を忙しなく動かしていた私は、覚悟を決めて、今まで溜めていた気持ちを解き放つ。



「私、安芸津さんのことが好きです」