―――バシャ―・・・
・・・・・・朱莉さんの言ったとおりだった。
まさか、女子トイレで水をかけられるとは思ってもみなかった。
「はは・・・」
から笑いを浮かべる。
これは、絶対に真君のファンからの嫌がらせだろう・・・
全くドラマの見過ぎだっつーの。
『何があっても自分の意思はしっかり持つのよ。
あなたが真とずっと一緒にいたいなら、絶対に曲げちゃダメよ』
朱莉さんは私にこう言ってくれた。
朱莉さんは私と真君の恋を応援してくれている。
強い味方だ。
きっと大さんも榊原君も実来も、みんなも・・・
私と真君を応援してくれている。
しっかりしなきゃ・・・!!
自分が好きだと“想う人”なんだから。
「・・・なっちゃん。
どうしたの?びしょびしょじゃん!!」
放課後、やっとの思いで教室に戻ると、真君に抱きしめられたままそんなことを聞かれる。
「う、ううん・・・なんでも―――」
「何でもないはずがないでしょ?
なっちゃんはもう、僕のものなんだ。
何からもどんなものも僕はなっちゃんの味方だからね!」
「―――真君・・・」
なんて心温かい言葉だろう・・・
「あのね―――」
私は真君に全てを話した。
真君は話の途中で眉をピクっと眉間に寄せたがすぐに戻し私の話に終始聞いてくれた。
話終えると、真君はしばし言葉が出ないかのように黙っていた。
そして―――
「そっか。そんなことがあったんだね。
ごめんね。助けられなくて」
「ううん。真君がこうしてそばにいられるだけで幸せだよ。
それに朱莉さんにも言ってくれたの。
自分の意思はしっかり持つのよって。
だから私決めたの。
絶対に真君を手放さないって」
「なつき・・・」
一瞬驚いた顔を浮かべた真君。
だが、ふっと柔らかい笑みに変わり、私をギュッと抱きしめてくれた。
そして、前髪・目・鼻と近づき、今度は唇に近づき重ね、舌を重ねる。
真君からくれる一つ一つが愛おしすぎる。
甘い刺激に私は思わず息が乱れる。
どんどん深くなっていくキスに酔いしれたころ、名残惜しそうに離れた。
「まだしてほしい?」
「え・・・?」
窓の光から差し込む光からか妖艶に光る真君の瞳。
「まだ、してほしいの?」
「え・・・えっと・・・」
本当はもっとしてほしいんだけど、そんなこと言ったらなんだか私がキス魔になっているみたいですごく恥ずかしいから中々言えない。
「顔にしてほしいって書いてあるよ」
と真君にイジワルな顔を浮かべられ一層恥ずかしさがこみ上げてくる。
すると、真君はまた私の唇に触れるだけのキスを落とす。
「今日はこれぐらいにしようか。
じゃなきゃ、僕何するかわかんない」
と耳まで顔を真っ赤にして、視線を逸らす真君は本当に子犬のように可愛く見える。
「次はもっと濃厚のやつね☆」
間違えた。
一匹狼だった。
「うん!!」
と私が答えると、真君はにこっと微笑む。
「元気になったね。
まぁ、僕たちも気持ちが固まったし、なっちゃんの本音も聞き届けたし。
なっちゃん」
と、改めて呼ばれ、私は思わず姿勢を正す。
「なつき。俺はお前をぜってぇ離さねぇ。
覚悟しろよ?」
「はい!!」
子犬のように可愛い僕系で癒し系で心温かい真君も・・・
一匹狼で俺様で強引で喧嘩強い真君も・・・
私は『早見真』という人間に恋をしたんだと改めて認識した。
翌日―――
「なんとか言ったらどうなの!?」
私はとうとう、真君のファンに囲まれ、暴力を振るわれていた。
毎日毎日そんなことが起きている。
しかし、今日は違った。
「チっ・・・!!イライラす―――」
―――パチッ
といきなり何か当たった音が聞こえ、見てみるとリーダー格の子の口に何故か出席簿が・・・
「こっちがイライラするんだけど」
この澄んだ声は――――真君だ!!
「!!」
真君が見事にその子の口にめがけて出席簿を投げたようだ。
「キミたち、寄ってたかって、僕の大切な人に何してんの?」
一歩一歩彼女らに近づく真君の足は、今にも彼女らを殴りかかりそうな勢いだ。
「い・・・いや・・・それは・・・その・・・」
「はっきりしないね。
じゃあ、こっちも言わせてもらうけどさ。
何とか言ったらどうなんだよ?」
「!!」
さっきまで強気だった彼女たちの目から涙が溜めている。
「な、なんで・・・?
何でよりにもよってこんな根暗なの!?」
「あ?根暗!?
よく言うよ。じゃあ、俺がお前らの誰かと付き合ったら誰も文句は言わねぇのか?」
「っ!!」
「こいつを根暗って言うけど、お前らはどうなんだよ。
俺からしてみれば、お前らが一番根暗どころか陰気くせぇよ」
「・・・」
「言っとくけど、俺はこいつを離れる気なんて、全くねぇから」
とびしっと言われ、彼女たちは諦めたように走って行った。
「大丈夫か?なつき」
「う、うん!!」
「そっか。よかった・・・」
と安堵の息をもらしたまま抱きしめてくれた。
やっぱり、真君の温もりが感じるし、何よりも落ち着く・・・
「でも、真君の株が・・・人気がなくなっちゃったのかな?」
「人気?
あぁ~・・・でも僕そんなの興味がないなぁ」
左様ですか・・・
「だってなっちゃんに愛されていればそれでいいもん」
なんて・・・なんて・・・
「なんて可愛いの・・・?」
「へ?」
間抜けた声を発した真君は私の顔を拗ねたように見つめる。
「可愛いって言ったの?」
「うん・・・ごめん」
「ヤダ。許さない」
え~・・・そんなぁ~・・・
「男はね、可愛いなんて言われても嬉しくないよ?」
「じゃあ・・・カッコイイ?」
「そんな疑問形でいわれても嬉しくないやい!!」
「じゃあ、どうすれば―――」
「じゃあ、キス、してよ!!」
・・・。
い、今、なんて言ったんだろう・・・
「キ・・・ス・・・?」
「そう。なっちゃんから僕に♪
そしたら、許してあげる」
なんて横暴な・・・
「ほらほら。早く」
完全にイタズラ顔の真君。
ちょっと、遊ばれているような気が―――
「ねぇ、まだ~?」
しかも、尻尾を思い切り振っているような気が・・・
もう、こうなったら!!
私は、そっと真君の唇に重ねた。