どうにかこうにか言いくるめ、彼と一緒にタクシーを降車した。

マンションのエレベーター内で、既に彼は無言を決め込んでいる。

12階建マンションの最上階の角部屋——、そこが私の部屋。

部屋の前に着くと、カードキータイプの施錠を直ぐに解除し、家の中に桜庭准教授を招き入れる仕草をする。


「君は非常に不用心だ」


と、お叱りを受けながらも、”邪魔するぞ”と玄関へと足を踏み入れた彼に、内心ニンマリする。

憧れの人物が私のテリトリーへと入っていく姿に、気分が高揚しないわけがない。

部屋の中には所狭しと、彼がこれまで発表して来た論文や、研究に対する記事、メディア露出の高い彼における動画や画像等のデータというデータがぎっしり詰まったファイルが並ぶ。