「そう言えば、君の教科書よく読み込まれているようだけど、法学が好きなのか?」


おそらく彼の言う教科書とは、彼の講義で用いられている彼自身の著書のことを指しているのだろう。


「いえ。どちらかと言うと法の下に平等だと言いながらも、搾取される側の人間と、搾取する側の人間が混在する世の中を作り出したこの国の在り方に疑問を感じています」


「ほう。その答えは見つけられそうか?」


「分かりません。でも、だからずっと探しているのだと思います」


「そうか。君の着眼点は、中々興味深いな」


その後”少し話さないか”と、持ち掛けてきた先生に私はすんなりと承諾していた。

大通りまで出た私たちは、タクシーを捕まえて乗り込んだ。