「………実は、兄貴から直々に本社勤務を言い渡された。新店経営の推進部長に任命するって」


「えっ!部長!?」


「…そう。しかも本社勤めと言いながらも、月の半分くらいは店舗回りだと言うから呆れるんだ」


げんなりする様な言い方をして、ふざけてるだろ…と呟いた。

だけど、私は彼が『(株)白川珈琲店』の御曹司だったことを改めて思い出していて、それが本来は彼が担うべき役職なんだ…と思い知って愕然とした。


(これは栄転ってことだよね。だから、喜ばなくちゃいけないんだ……)


そう思うけど、頭の中は真っ白で、どうすればいいのか分からない。喜んでやって、一言「おめでとう」と言わないといけないのに声も出せなくて__。




「……そっか…」


やっと出てきた言葉はそれ。
生きててもやっぱり彼とは別れる運命にあるんだ…と思うと切なくなってきた。


「兄貴はまだ専務だけど、此処へ戻る時に協力して貰ったから逆らえなくて」


どうせ社長を務める親父の差し金だろうけど…、と推測しながら息を吐き出し、目線を私の方へと流した。