「俺があんなことを言わなきゃ、あいつはそこでサッカーをやめてた……俺が」
水野君は悔しそうに唇を噛みしめてうつむいた。
「私はちがうと思う。たとえ水野君が言わなかったとしても、蒼君はサッカーをやめられなかったと思う。そこまでしてサッカーを続けてたのは、水野君との夢を叶えたかったからだよ」
「ねぇ、なんの話?」
「さあ? でも、なんだか深刻っぽいね」
ヒソヒソとささやく声と好奇の視線。人前だということを考えられないほど、今の私には冷静さが欠けていた。
「行けっ、水野!」
近くで聞いていた佐々木君が、真剣な眼差しで水野君の肩を叩いた。
「佐々木……」
「試合なんかよりも、そっちのほうが大事だろ。こっちは任せて、おまえは行ってこいっ! つーか、行かなきゃダメだ」
そう言って佐々木君が背中を押した。ほかの男子たちも、佐々木君の声に同意するようにうんうんと頷く。
「……悪い」
「大丈夫だ、なんも心配すんな」
「ああ……じゃあ、行ってくるっ!」
覚悟を決めた力強い瞳。
「夏目! 行くぞっ!」
「あ、うん……!」
走り出そうとした時、人だかりの中に皐月と麻衣ちゃんの姿を見つけた。二人は心配そうな表情を浮かべていたけど、私と目が合うと「がんばれ!」と励ましてくれた。
「うん! 行ってくるね!」
そう言って水野君の後を追う。