急いで机を動かし、掃除場所へと向かう。

「やっぱり、まだ気にしてる?」

彼が心配そうに訊いてくる。

「…うん」

わたし達2人は、昇降口で外履きに履き替え、運動場へ歩く。

「あっ、そうだ!」

少し前を行っていた彼が勢いよく振り向き、わたしは思わず足を止めた。

「…何?」

恐る恐る言うと、彼は勢いのままで答えた。

「今日この後、カラオケ行こうよ!」

⁉︎今日、この後?え?

「…で、でも、今日平日だよ」

「うん。そうだけどさ。俺は部活に所属してないし、千歳は参加できないし。それに今日は金曜なんだからさ」

「まぁ、そうだけど」

早口でまくしたてる彼に、ついていけない。

戸惑うわたしに、彼はふっと表情を和らげる。

「歌いたいんだろ?」

「…うん」

そして、無邪気に笑う。

「だったら、思う存分歌えばいいんだよ」

そうだ、わたしは歌いたい。

彼は、わたしのその気持ちに気付いて、今こうしてキッカケを作ろうとしてくれているのだ。

だったら…

「そうだね。行こう」

わたしは決めた。

「じゃあ。駅前に4時半集合で!」

トントンと、あっという間に決まった。

彼は満足そうにして、足を速めた。

「さて、掃除するか!」

「うん!」

広い広い運動場に、笑い声が響いた。