白い部屋に眠る少女の目がゆっくりと開かれた。

その目は綺麗な翠蒼(そうすい)色をしている。

数回の瞬きのあと、その目がしっかりと開かれる。

「んー……」

まだ意識がハッキリとしていないようだ。

少しして顔の口の辺りを覆われている違和感があることに気がついたようだ。

「あれ、ここはどこ...？こんなの付けてたっけ...？」

少女は小さく呟く。

辺りを見回し自分のいる場所を理解した。

「あ……そっか、病院か」

窓からは土手が見え、そこに咲き始めた桜の木が一列に並んでいる。

彼女は数ヶ月前、学校の授業中に倒れて意識を失い、入院した。

そして、その1週間後に意識を取り戻しそのまま入院している。

「おかーさん……？ 」

ベットの周りを囲っている重ためのカーテンの向こうからは何の物音も、返事も聞こえない。

「……お父さん？」

もちろん返事は返ってこない。

普段ならどちらかがいるはずなのだが……

少女は不安になりベットから起き上がろうとした。

しかし、左腕の痛みに気が付き体を倒した。

右手で布団をめくり腕を見ると、いくつかの針と機械が取り付けられていた。

彼女の細い腕が痛々しい事になっている。

寝る前にこんなの付けてたっけ？ と壁に掛けられたカレンダーを見る。

日付は4月2日。

窓から見える景色には土手に咲きかけの桜が一列に並んでいる。

「あれ……今日って3月27日じゃ……」

枕元のナースコールに手を伸ばしボタンを押す。

少しして、看護婦さんらしき女の人達と白衣を着て首に聴診器をかけた医者らしき男の人が来た。

「クドュルフさん！目が覚めたんですね？！」

「今、酸素マスクや針を取るからね」

少女の周りを取り囲み作業をしている医師達をよそに、彼女は窓の外の桜を見ていた。

そういえば、この間はまだ一つも咲いてなかったなぁ…

「今日の日付は言えるかい？」

白衣を着た医師が少女に訪ねた。

少女は医師の方を見て、少し考えたあと答える。

「……3月27日、ではなく4月2日……です」

隣の看護婦が小さく頷きながら、バインダーに挟んだ書類にメモを取っている。

「うん、そうだね クドュルフさんは一時心肺停止状態になり、その後1週間ほど眠っていたんだ」

「1週間…」

今までも何らかの事情により眠り続ける事はあったが、心肺停止で1週間も眠っていたのは今回が初めてだ。

それほど……病気が進行してきているのだろうか。

少女自身は詳しい病名を聞いたことが無い。

良くなるからね、と言われてきたが不安を覚える……。

「先生、私は本当に良くなるんですか？」

白衣を着た医師にそう質問する。

一瞬、眉を潜めたようにも見えたが笑ってこう答えた。

「うん、大丈夫だよ もうすぐ良くなるよ」

その答えを聞いて少女は微笑んだ。

「そうですか……」

嘘ばっかり。

心の中ではそう思いながら……