やっと声をだしてみると、にかっと笑顔を返された。
うっ……こ、これが芸能人オーラ……。
ま、眩しい……っ。
軽い眩暈に、壁に手を添え踏ん張る。
私って意外とミーハーだったらしい。
てか、どうしよう……。
私の目の前に、今世の女性が愛してやまない、あの川上瑞樹がいる。
「あはは。そっかぁ、そうなのか。湊君らしいね。じゃあ、これから一緒に遊びに行ってみる?」
固まる私に、ちょっと近所の公園まで、の感覚で連れ出そうとする川上瑞樹。
あまりにも突然の芸能人の登場と、あのニート疑惑のある湊さんの職場への興味が勝ってしまった。
そのまま財布とスマホをパーカーのポケットに突っ込んで差し出された手を取っていた。
「うぇ?」
連れて行かれた先は、とある商業施設。
そこには、『オーディション会場』の文字が……。
思わず変な声が出て、慌ててパーカーのジップをギリギリまで上げて口元を埋めた。
な、な、なんなの、これ!?
ちょっと、どういう事っ。
「お疲れ様でーす」
スタッフらしき人達に声を掛けて、我が物顔でズンズン進んで行く川上瑞樹の後を、小さくなってちょこちょこ付いて行くと、大きな会場に出た。
番号札をつけた若い女の子たちが、緊張の面持ちをしている。
皆しっかりメイクをして流行りの服を着て、キラキラ眩しい。
ああ……。
パーカー、ジーンズ、スニーカー。
ああ……。
こんな事とは知らず、かなり普段着で恥ずかしい。
「う~ん」
川上瑞樹が呻る。
「え~と……姪っ子ちゃん」
「……杏です……」
「杏ちゃん、ちょっとサプライズしてみない?」
「は?」
悪戯にほくそ笑む川上瑞樹に、嫌な予感しかない。
これが、私の人生のターニングポイントとなった。