目を覚ましたら、ベッドの上だった。
見覚えのない天井にちょっと焦ったけど、すぐに昨日の事を思い出して寝返りをした。
男の人の匂いがする。
湊さんのベッドかな。
自分で車から降りた記憶はないから、湊さんが運んでくれたんだろう。
うわ~、恥ずかしい。
荷物が壁際に置かれている。
あんな細い身体で、私と荷物を運ぶなんて意外と力持ちなのね。
部屋に時計がないから時間は解らないけど、カーテンから覗く陽の高さからして、結構な時間な気がする。
これからお世話になる家だし、初日からだらしないスタートは失礼な気がする。
湊さんを探しに寝室を出ると、ちょっとした廊下に出た。
えーっと、玄関があっちだから、こっち?
数あるドアの中から、ガラスがはめ込まれたのをそっと開けてみる。
リビング発見。
でも、湊さんの姿が見当たらない。
男一人暮らしのわりに、整然としていて、ついキョロキョロしてしまう。
奥にもう一つドアがあった。
こっちの部屋に居るかも。

「湊さ~ん」

遠慮気味に呼んでみるけど、返答はない。
寝てるのかな?
ノックをしてみる。
応答なし。

「ごめんなさい、失礼します!」

意を決して開けてみたけど、不在でした。
中には、広い机があって、上に3台のパソコンと本や雑誌が折り重なっていた。
他にも、ギターやキーボード、ダンベル。
バスケットボール、未使用のランニングシューズ。
壁一面が本棚になっていて、そこには、部屋に散りばめられている多趣味を物語るかのように、色んなジャンルの本がひしめき合っていた。
うわ~。
図書室みたい。
でも、踏み入る事はしなかった。
今更だけど、これ以上はプライバシーの侵害だわ。
リビングに戻って、革張りのソファーに腰を下ろす。
広い家だなぁ。
カーテンが開かれた窓外の景色は、隣家など見えない。
と言うか、私の住んでいた地域では考えられない高さの位置にある。
だって、見える建物が私のいる位置より大分高い。
なかなか階層の高いマンションっぽい。
都会の物価は解らないけど、一人暮らしの会社員って、こんないい部屋に住めるもんなの?
いいとこにお勤めなのかしら?
な~んて。
近所のおばさんみたいな事思ってみたりして。
さて。
この主不在の家でどうしたらいいものか。
湊さん、昨夜スマホで『戻る』て言ってたから、私を置いた後仕事に戻ったのかな。
お母さん、慌てた様子で電話してたし、湊さんを急かして迎えに来させたのかも。