「ちょっと、あんたいい加減にしなさいよ!」
高校へ続く坂道で、私の前を歩く男女が振り返った。
勿論、この荒げた声をあげたのは私。
そして、この『男女』の男は、私の中学からの彼氏である。
「おはよー、ハニー」
「ハニーじゃないわよ!また浮気して。高校入って何人目よ!」
「う~ん、解んねー。だって俺モテるし」
両手で数を数えながら、面倒臭くなったのか途中、外国人のように手をかざして見せた。
「もう~。あんたこそまだ彼女ヅラしてんの?真輝君は皆の真輝君なのよ?もう相手にされてないんだから、付きまとうのやめたら?」
「カナちゃん、俺、杏と別れてる気ないよ?それでも良いって言ったの、カナちゃんじゃん」
「だ〜め~。真輝君は皆の真輝君だもん。だいたい、真輝君の彼女がこの程度じゃ似合わないし~」
こ……この程度。
真輝の腕に蛇のように巻きつく姿に、私は唇を噛みしめ、ギュッと拳を握った。
確かに、彼氏の真輝は高校に入学してから急激にモテ始めた。
調子に乗った真輝は、来る者拒まず去る者追わず、で同級生上級生と関係を結んでいるみたいで、兎に角腹立たしい。
そんな私達の修羅場を登校中の学生はクスクス笑いながら横切っていく。
何度も言うけど、私の彼氏の真輝は、高校に入ってから同級生上級生と浮気を繰り返している。
こうして、朝から詰問する私の姿は、この学校では習慣化されている。
だから、こうして登校中、朝から問い詰めるなんて日常の些細な光景なのだ。
「う~ん、でも彼女は杏だけだから。じゃあまたね」
「え~」
残念そうにしながら、皆の~と言っているだけあって引きも早いカナという女は、さっさと校舎へ向かって歩いて行った。
「さぁ杏ちゃん、俺達も行こうか」
まるで何もなかったかのように、にこにこ笑顔で私と手を繋ごうとする手を振り払い、真輝からすり抜けると学校へ続く坂道をズンズン進む。
他の女が触れた手で触れられたくない!
「待ってよ、杏ちゃ~ん」
無視無視。
……。
声が聞こえなくなって振り返ると、真輝はまた違う女の子とヘラヘラしながら話している。
「真輝!」