健琉は、衛藤と芽以の間に身体を滑り込ませると

「白木に何か用か?」

と、男二人を睨み付けた。

「お前には関係ないだろう。だいたいお前も里中も、沢城も井上も、牛島も!」

「みんなみんな目障りなんだよ!」

「いつもいつも芽以たんと遥香たんの邪魔ばかりして」

社内でも衛藤と岡島の"百合好き"は有名であったが、このように二人が社内の職員に干渉してきたことはなかった。

" 百合好き"とは、女性同士の恋愛物語を溺愛する方々の一部を表す例えであるが、これまで衛藤と岡島のそれは二次元に限定されていた。

しかし、この春、入社してきた芽以と遥香の組み合わせが、衛藤と岡島の推しキャラにソックリであったことから、二人の三次元キャラへの執着がエスカレートしていったのだ。

「芽以たんに触るなよ」

岡島が、背中に追いやった芽以の腕を掴んでいる健琉の手を離そうと近づいてくる。

「こら、やめろ、それ以上やると,,,」

健琉がそう嗜めようとした矢先、

「きゃあ!」

押されることになった芽以の身体が、一瞬にして宙をまった。

「芽以!」

健琉は、掴んでいた芽以の腕を引き寄せたが間に合わず、

次の瞬間、

二人の身体は重なるようにして階段を転がり落ちていた。

「芽以たん!」

「黒田!」

衛藤と岡島の叫ぶ声が聞こえた。体に激痛が走る。

"芽以は大丈夫か?"

抱き締めている芽以は動かない。

"芽以、起きろ"

そう、声に出そうとしたが言葉にならず、健琉も意識を手放した。