芽以が宴会場となっている個室を出て化粧室に行くと、トイレは使用中になっていた。

中の人は気分が悪いのか、時々呻き声が聞こえてくる。

「大丈夫ですか?」

と声をかけてみたところ、

『大丈夫です』

との返事は得られたが、一向にそこから出てくる様子はない。

心配した芽以は廊下に出て、飲み物を運んでいる従業員を捕まえて状況を説明した。

「ありがとうございます。時々声をかけますね。トイレは階段を降りて一階にもありますので、お客様はそちらをご利用ください」

芽以は従業員に促されるまま階段を降りて一階に移動しようとした。

芽以が、2階と1階の間の踊り場に到着したとき、

「芽以たん」

と頭上から呼び掛けてくる声に振り返った。

そこには、先日、中庭で昼食を摂ったときに少し話をした、経理部の衛藤と岡島の姿があった。

二人は芽以に近づいて踊り場まで来ると、
「ダメだよう、芽以たんは遥香たんの側にいないと。」

「そうだよう。井上なんかにベタベタ触られちゃったら芽以たんが汚れちゃうでしょ」

より芽以に近かった衛藤が、芽以の肩に手をのせた。

ニタニタと笑う衛藤の手に嫌悪感を感じて体を反らせようとしたその瞬間、

「お前ら何やってんだ」

と健琉の声が聞こえてきた。