健琉が新入社員歓迎会の会場に着いたのは、予測していた時間よりも遅い20時過ぎであった。

頼まれたベビーカーを持ってkiddyを訪れたまでは良かったが、買い物から戻ってきたその客に捕まり、詳しい説明を聞かせてほしいと言われたのだ。

その客は老夫婦で、機械類の取り扱いには疎い感じが、ありありと伝わってきた。

"時間的にヤバい"

と、焦る気持ちはあったが、結局二人が理解できるまで健琉は丁寧に説明をしてしまった。

そうこうしているうちに無情にも時間は過ぎ、現在に至る。

会場はすでに盛り上がりを見せており、酔っ払って潰れる者も出ていた。

健琉は葵生に促されるまま空いている座席につくと、芽以を探してキョロキョロと周囲を見渡した。

芽以と一緒にいるはずの中野は、迷惑そうな顔をしながらも牛島の話に耳を傾けている。

向かいに座る井上は潰れて眠ってしまった様だ。

「芽以ちゃんならさっき化粧室に行ったよ。なんか井上に絡まれて逃げたみたい」

健琉は会場内を見渡して沢城優太を探した。

優太は隣のテーブルで、先輩女子社員に絡まれて身動きがとれなくなっており、芽以と一緒ではなさそうだ。

健琉は、置いてあったピッチャーからウーロン茶をコップに注ぐと一気のみをして再び席を立った。

「俺もトイレ行ってくる」

「心配性だな」

苦笑する葵生を尻目に、健琉は駆け出していた。