「あいつは、わざわざ俺のところに来たよ」


それが南くんのことだと分かるのに、しばらく時間がかかった。


南くんが、裕也のところに__?


この細やかな幸せを、少しでも長く大切にしたいから、関係が変わることを拒んだはず。


これ以上を望もうとすれば、音を立てて今が崩れ去ってしまう。


それならこのままでいい。


そう南くんも了解してくれたはずなのに__?


「どうやってお前たちを痛めつけてやろうか考えている時に、向こうから来たんだよ。馬鹿みたいに、渚と別れてほしいってな」


「__うそ」


「俺のほうが渚を笑顔にできるんだってよ。なぁ、渚もそう思うか?」


裕也が、霞んで見えなくなっていく。


泣いてはいけない。


泣いてしまうと、認めることになる。


南くんの笑顔が、もう見れないと__。


「なに泣いてんの?泣きたいのは俺なんだけど?」


はぁー⁉︎て感じで一歩、詰め寄ってきた。


ふざけているようで、その目だけは決して笑ってはいない。


「俺さ、こう見えて優しいからさ、そんなにも渚と別れてほしいなら別れてやるって言ったんだよ」


「えっ⁉︎」


私は目を見開く。


「そうそう、今のお前と同じ顔してたな。だから、どこまでその気持ちが本物か見せろって言ったんだよ」


「__どういう、こと?」