電話を切ると、
後ろからパパの笑う声が聞こえてきた。


「梓ちゃんももう恋をする歳か。
 なんだかパパ、びっくりしたよ」


「あ、あたしも。まさか
 自分に彼氏が出来るとは思わなかった」


「梓ちゃん、今幸せかい?」


「……わかんない」


「そうか」


パパは力なく笑うと二階を見上げた。


そうだ、着替えなきゃ。


あたしは急いで二階に上がって部屋に入った。


クロゼットから服を取り出して鏡の前に立つ。


何を着て行こうか。


ファッションについて疎いあたしが
悩んでも上手くまとまることはなく、


ぐるぐると頭を悩ませていると、
コンコン、とノック音がした。


「はい?」


「……俺」



橙輝の声がして、
ドクンと心臓が飛び跳ねた。


途端に赤くなるのが、
鏡に映る自分の顔で分かる。


慌てて返事をすると、
ゆっくりと扉が開いて、


橙輝が部屋に入ってきた。


「出かけるのか?」


「う、うん。松田くんと」


「そうか」


「うん」



久しぶりの橙輝との会話に
少し気まずく感じる。


こんな声だったっけ?


耳の奥が擽ったい。


火照る頬を押さえて俯くと、
橙輝が口を開いた。


「どうせお前、
 何着ていくか迷ってたんだろ?」


「な、なんでそれ……っ」


「はは。分かりやすすぎ。
 どれ、貸してみ」