「素直にならないとだめなのよ?
こういうのは」
「……絶対に好きになっちゃいけない人なの。
その人」
ポツリと話し始めたあたしを見て、
お母さんは嬉しそうに笑った。
「それで?」
「その人はあたしの気持ちを多分知っていて、
でもそれは迷惑で。だから
別な人とのことを応援し始めたの。
だからあたし、松田くんっていう子と
付き合うことにして……それで……」
「ふうん。そういうことね」
「でも、もうこの気持ちは消すつもり。
徐々にだけど松田くんを好きになる。
それでもいいよね?それもアリだよね?」
お母さんは話しながら動かしていた
あたしの手を止めると、
じっとあたしを見つめた。
あたしもお母さんの目を見つめる。
お母さんの目はまっすぐで、キラキラしていた。
「アリね。確かにアリ。
でも一つだけ言っておくわね。
好きになっちゃいけない恋っていうのは、
世界中どこを探したってないのよ?」
「そうなの?」
「ええ。だから後悔のないようにしなくっちゃね」
「……うん」
「さて、買い物に行こうかな!」
お母さんが立ち上がって伸びをした。
なんだかお母さんに話したことで
少しだけすっきりした。
ただ一つ、違うなあって思うのは、
好きになっちゃいけない恋はないってこと。
お母さんは知らないから。
あたしが橙輝を好きなことを。
知らないからそんなことが言えるのよ。
知ってしまったら多分、
猛烈に反対するだろうから……。