「大丈夫か?」
「う、うん……」
返事をして顔を上げると、
松田くんが駆け寄ってきた。
さっきまでの怖い顔はもうなくて、
代わりに苦笑いをした松田くんの顔がそこにあった。
「百瀬、もう大丈夫だからな」
「うん……あの、ありがとう……」
「にしてもこんな夜遅くに
一人で出歩くのはよくないな。
百瀬も女の子なんだから
それを自覚しないと。危なかったな」
「そうだぞ。もっとしっかりしろよな」
橙輝がきゅっと抱き寄せた手に力がこもる。
その瞬間、きゅうっ、と胸が苦しくなる。
ぱっと目を逸らして再び地面を見つめた。
すると、松田くんの声が聞こえてきた。
「あー。やっぱ俺、ダメだわ」
何?
何がダメなの?
ちょっと気になるような言葉を落とした松田くんだけれど、
顔は上げられない。
そのまま次の言葉を待っていると、
橙輝があたしから離れた。
その途端、急に心が落ち着く。
橙輝に触れられていないっていうだけで、
体温が元に戻る感じ。
落ち着いて呼吸が出来ると思ったのも束の間、
ぐいっと肩を掴まれた。
誰に?
……松田くんに。
「ま、つだくん……?」
「俺さ、お前のこと、好きだわ」
「えっ?」
「入学式の時からずっと好きでした。
良かったら俺と……付き合ってください」