「ぐっ!」
声をあげたのはあたしではなく、
あたしの手を掴んでいた男だった。
男はあたしの手を離して、
顔を押さえてよろよろとよろめいた。
何が起きたか分からない。
ただ殴られたことだけは分かる。
頬に鈍い痛みが走り、
それはじんじんと熱を帯びる。
頬を押さえて音のしたほうを見ると、
そこにいたのは……。
「松田、くん……?」
橙輝の部屋着姿で息を切らして立っていたのは、
間違いなく松田くんだった。
松田くんは男たちを睨みつけて、
あたしをちらっと見た。
「おい、大丈夫か?」
あたしの前に橙輝が現れて、
橙輝はあたしの肩を抱き寄せた。
そこで初めて、あたしの体が
震えていることに気が付いた。
ぎゅっと自分の体を抱きしめる。
男たちがよろめきながら松田くんを睨みつけた。
「何すんだてめぇ」
「大人をなめんなよ」
男たちが松田くんに殴りかかった。
びっくりして反動できゅっと目を閉じる。
殴られてしまう。そう思ったのに。
「ぐっ!」
どしゃっ、と地面に倒れたのは男たちだった。
松田くんはキズ一つつけられることなく立っていて、
怖い顔をして男たちを見下ろしていた。
「散れ。チンピラども」
低い声でそう言うと、男たちは
そのまま逃げるように走り去って行った。
その背中をぼうっと見つめる。
再び震え出した肩を押さえて
地面に視線を落とすと、
橙輝があたしの顔を覗き込んだ。