「ほら、今日見ててそう思ったし、何よりまつ――」


「橙輝の馬鹿!どうしてそうなるの?
 信じられない」




呆然とあたしのことをふっと見つめる橙輝。


松田くんとあたしが付き合う?


松田くんを選び、俺を慕うな。


そう言われているような眼差しがそこにあった。


「怒ってんのか?」


「……別に」


ええ、怒ってますとも。


だってさ、何を唐突に言っているのか分からない。


松田くんとあたしが付き合う?


冗談じゃない。


あたしが好きなのは、あなたなんだから。


「そっか。まあ、お前もあいつと連絡とったら
 何かが変わるかもしれないから、
 番号を教えてやれよな」


「……うん」


話が終わると、橙輝は立ち上がって
二階へと行ってしまった。


ふっとため息を一つして、
濡れた髪を乾かしに洗面所に立つ。


鏡の前で向こう側の自分を見る。


驚いたことに、あたしの表情は冷たく、
どこか怒りに満ちていた。







髪を乾かし終えて一階の電気を消した。


真っ暗闇に包まれた空間から逃れて二階へあがる。


橙輝の部屋からは、二人の笑い声が聞こえてきていた。



ベッドに身を投げて耳をすませる。


喋っているのは聞こえるけど、
何を喋っているかまでは分からない。


つまんないの。


お母さんもパパもいないし、何だか
あたしだけ蚊帳の外でどうも落ち着かない。


それでも、ねえ何してるの?なんて
入ってく勇気はない。


仕方ないから立ち上がって玄関まで降りていった。


少し夜も遅いけれど、気分転換に
コンビニでも行こうかな。


そう思ってサンダルを履くと、
二階を見上げた。


外に出る事、言わなくてもいいかな?


「行ってきます」